美術部での事件

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美術部での事件

 トビオが同じ部に入れないよう、女子バスケットボール部に入部しようと思った。ところが入部するには試験があるという。そもそも公立高校の部活動を選択する上で、試験で生徒を選別すること自体、問題である。  何はともあれ、走る速さ、跳躍力、シュートの正確さなど、すべて最低な結果で私は不合格となった。女子バレーボール部、女子テニス部、その他すべてのスポーツ部は、どこも試験があり、私は入部できなかった。  私が多くの部活からボイコットされた事実を知った担任の林原先生は、自分が顧問を務める美術部へ入らないか、と誘った。林原先生は50代後半の優しそうなおじいちゃんに見える地域では有名な画家である。実は、この美術部でも激しいイジメが横行している事実を確認していたので、私は美術部へ入部した。それを知ったトビオも美術部に入部した。  美術部の3年生に、アジャタという男子生徒がいた。阿蛇田大介という日本人であるが、アジャタという怪しげな発音がよく似合うイスラム系の顔立ちのその生徒は副部長をしていた。部長は高木という非常にキツイ神経質の塊のような女生徒だった。  部長になれなかったアジャタは、高木の取り巻きを逆恨みし、いつかどこかで痛い目に合わせようと何かたくらんでいる、と下級生はウワサしていた。  高木部長は絵の実力は相当なもので高校生を対象としたコンクールはもちろん有名な公募展でも入賞しているという。  一方、アジャタの作品は雑で汚らしく見ているだけで気分が悪くなるような駄作。その腐敗したような醜悪さこそアートなのだと彼は言い放っていた。  母親役の職員は、私が美術部に入ったのはよい選択だと言った。スポーツを行うと激しい衝撃で機械が故障したりフリーズする可能性が高くなるので、無難な選択と判断されたのだ。また彼女は付け加えて情報提供した。 「トビオは危険な人物である。彼の履歴は限りなく不透明で、現在も引き続き調査中である。要注意人物であることは間違いない。気を付けるように。」  ある日の放課後、美術室に行くと、3年生の女子数人が泣き叫んでいた。彼女たちが描きかけている油彩画に、大量のテントウムシが張り付いていた。自然にどこからか飛んで来て、たまたま油彩画に止まって動けなくなったようにも見えるが、実際、そんなことが起こりうるだろうか?  トビオはその虫を一つ一つピンセットでつまみ袋にまとめて捨てた。  数日後の放課後、美術室に近づくと悪臭が漂って来た。中に入ると、誰のイタズラか、腐敗した生魚が床のアチコチに何匹も転がっていた。  トビオはその魚をビニール袋に集めて捨て、床をきれいに清掃した。  はたまた次の週には、美術室の入口のドアに血のりがベットリとついていた。動物の血か人間の血か、大量の血痕が数か所あり、それがダラダラと流れて床まで到達していた。  とうとう警察が取り調べることになった。美術部員の一人一人が事情聴取された。私も事細かく質問を受けた。毎日何時まで活動するか?活動中、不審な動きをする部員を見ていないか?など聞かれ、最後に 「あなたは、この事件の犯人に心当たりはありますか?どんな小さなことでも、何か気になることがあれば教えてください。」 と聞かれた。  私は絶好のチャンスだと思い、こう言おうとした。 『山村トビオが怪しいと思う。作品に多量に張り付いた虫を手際よく片づけ、床に散らばった腐った魚もきれいに片づけた。警察が来なければ血痕も彼が清掃しただろう。誰にも頼まれないのに率先して片付けるのは、何かおかしいと思う。』  だが、そのように特定の個人を誹謗中傷する言葉は選択できないようにプログラミングされている私は、 「山村トビオが・・・・・」 で緊急停止。フリーズした。一時、身動きもマバタキもできなくなり、あわや救急車を呼ばれるところであった。可動できるようになった私は、急いでその場を離れた。
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