第一話

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第一話

 出所まで残り2週間。俺は雑居房から一人部屋へ移された。  雑居房の中は何かしら話し声が聞こえて何も考えなくてよかったが、一人部屋になるとつい、色々と考えてしまう。  小さなソファーに腰掛ける。もう少しで決められた毎日をこなす日々が終わってしまう。  外に出たところで、俺には何もない。  これからきっと、人を愛することはないだろう。この世で一番愛した男は、もういないのだから。  生きる意味のない俺は、どうすればいいんだろうか。  裏切って裏切られて。それが俺が身を置く、極道という世界だ。  ただ普通に道を歩いていただけなのに、突然あたりが血の海になる。 「親父!」  いとおしい人の叫び声と銃声が、ほんの数秒ずれて響いた。 「京次さん!」  京次さんが崩れるように床に倒れた。その後ろにいた、京次さんが庇った俺たちの親父である、銀水会会長も次いで撃たれる。  銀水会の他の組員が襲撃してきた相手に必死で対抗する。襲撃してきた相手は胸の代紋を見ると敵対していた松江会の連中だった。  這って俺は京次さんのもとへ向かう。京次さんはまだ息をしていた。 「京次さん……」 「よ、お……健人」 「なんで……」 「親父、守らねえと……な? 分かってくれや」 「嫌だ……嫌だ、京次さん……」 「健人、ごめんな。愛してる……」 「嫌だ、聞きたくない、京次さん……」  京次さんを支えていた腕にかかる重さが増した。  襲撃してきた奴らは道具を弾くと、獣の吠える様な銃声が耳に入る。倒れている他の組員が落としたドスが目に入った。それを拾って俺は松江会の奴らに突き進んだ。  身体に燃えるような熱さのあと、痛みが走る。  それでも俺は目の前の京次さんを殺った奴を殺すために前に進んだ。  ずぶ。とドスは簡単に相手の体に入り込む。それを抜いてさらに他の奴らへと向かう。  何度もそれを繰り返すうちに、手が血で滑り、相手に突き刺したドスが抜けなくなった。  目から涙が溢れ出る。相手を突き倒し、踏みつけながらドスを抜く。  目が霞む。視界が赤い。身体が熱い、痛い。もう周りに誰がいるかもわからなくなっていた。
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