強制的な華燭の典

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強制的な華燭の典

父の住まう公爵家から呼び出しがあった時、嫌な予感がしたのは確かだった。 そしてその予感はまんまとあたり、二条(じじょう)菜乃花は華燭の典を迎えさせられていた。 (時代は自由恋愛だというのに!) モダンボーイやモダンガール(略してモボモガ)欧米風のドレスに憧れていた菜乃花は、角隠しの重さに軽くイラッとしていた。 カトリック系の女学校に通い、セーラー服とブーツで街を闊歩していた、元気の良い菜乃花である。 長い髪に大きなリボンをつけ、たまに恋文をもらうような美少女だ。 しかもマセていて、春画を押入れに隠れて見るような娘だった。 友人が先に結婚したので「初夜はどうだったの?」と聞くような菜乃花である。 それなのに、親……しかも父親の正妻が勝手に決めた縁談だった。 本当の母は新橋の芸者で、元士族。父は由緒ある家柄で伯爵家だ。だが、菜乃花は妾の娘ということで、父の住む本宅など今まで行ったことがなかった。 いきなり呼び出され、父の奥さんに見合いを勧められ、本人には会えずにその男の父親の顔だけ見た。 (巨大なサルじゃないの!) 菜乃花は絶望し、脱走してやろうかと思った。だが、結婚相手の家も華族である。色々と差し障りがある。 「……(畜生……っ)」 菜乃花は美少女だが、勝気な性格だ。 自立した女性になるために女学校に通ったというのになんということだろう。 (それにしても華族に嫁げるんだから、潔子(きよこ)でも良いはずなのに) 父である二条には、娘がもう一人いる。潔子と言う名前だ。菜乃花より一つ年下だ。16歳なので結婚してもおかしくない。同じ華族で年齢が釣り合う者はそんなにいない。だから正妻の娘である潔子が受けてもおかしくない話だ。 だが、妾の子供である菜乃花になったのは絶対に訳がある。 (やはり、父親が巨大なサルみたいだからかも) ゴリラっぽいのだ。 と言うことは、今隣にいる結婚相手もゴリラみたいなのかもしれないのだ。 菜乃花は結婚式をあげながら、横目で盗み見る。 関東大震災からこちら、ホテルウエディングが流行ってきていて、帝国ホテルでウエディングドレスを着るのが夢だった菜乃花だった。 が、今は婚礼相手の伊達家の大広間で華燭の典を迎えている。 相手も和装だ。 (巨大猿じゃないかも……角隠しが邪魔でよく見えないなあ)
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