強制的な華燭の典

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菜乃花は、父である伯爵のもう一人の娘……正妻の子である潔子がなぜ、この伊達家の次男と結婚しなかったのかずっと疑問だった。 伊達は名門である。今、華族の人数は減っている。名門家に嫁げるのであれば次男であっても良いと思っている親子も少なくないはずだ。 (結婚しない理由は、私と同じくらい潔子が面食いだと思ってたけど) なにしろ、伊達の父親を見たとき、デカいサルかと思ったくらいだ。 (むしろとても綺麗な顔立ち……) 烏の濡れ羽色のような艶やかな前髪は少しだけ長めで右目を隠している。が、見えている左目の方は黒曜石の美しさで切れ長にして澄んでいる。ダイヤモンドのように揺れるたびに水面が跳ねるかのような潤みがあり、水気が滴るかのようだ。 鼻梁も涼やかで、薄めの上唇と端正で硬質な下唇は知的な感じがする。にもかかわらずどことなく隠微だった。喉仏というか首筋も色気があり、スワロウテイルの黒い背広が似合う細身の体躯だ。間違いなく美男といえる。 が、問題は前髪に隠れている右目の方だった。 (ある種の先祖返り……) 伊達の次男は、黒い眼帯をしていた。 戦国武将、伊達政宗は歴史物語によると黒い眼帯をしている。鋼でできているという設定なので非常に重たい。だからありえない話で、事実は後世の人による創作だ。 疱瘡(天然痘)で失明したので隻眼だったのを白い布などで隠していたらしい。 が、今も昔も日本は障害を持つ者に対して偏見が厳しい。基本的に被害者に落ち度があると思う傾向がある。 天然痘なら伝染病であるし、それ以外なら遺伝的欠陥として忌み嫌われる。 菜乃花の異母姉妹である潔子はこの眼帯のことを知り、結婚しなかったのではないか。 菜乃花はそう思ったけど、菜乃花の方は別に白皙の美青年である、この伊達家の次男の見目をとても気に入った。 (いい男だわ)
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