強制的な華燭の典

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「さあ行こうか」 背中に手のひらが当たり、エスコートされた。 「え、どこに?」 「君は、この家で夜を迎えるつもりか?」 「え?」 もうこの家の嫁になったのだから、馬車馬のようにこき使われるのではないかと、菜乃花は思っていた。 何しろ「嫁とうどんはよく揉むほど良い」と言われそうな時代だ。 子供を産み、育て、そして姑や舅に使え、罵倒されたり意地悪をされたりしながら、忍びに忍び、耐えに耐える。 それが日本の家長制度だし、家庭内ヒエラルキーの1番下が嫁だ。自分がこれから生む予定の息子や娘より格下なのだ。この家で唯一血縁関係ではないもの……それが嫁である。 この時代、『女三界に家なし』だった。 女は『三従』といわれていた。 幼い時は親に従う。 嫁に行っては夫に従う。 老いては子に従う。 なので、一生の間、広い世界のどこにも安住の場所がない。 『女に定まる家なし』という意味だ。 女に生まれただけでバカにされ、搾取されるのが常識だった。 新婚初夜ではモノや家畜のように扱われ、蹂躙を受け、翌朝早いうちから井戸で水を汲んだりご飯を作ったり掃除をする。食事は一人だけ土間で食う。しかも余り物。そのくらい、嫁いびりは酷かった。そして、それが嫁のためにも良いとされた。 なので、この初夜でこの男になぶりものにされ、翌朝早く起きて家事をしないといけない。 金持ちの家に嫁いだとしても、新妻にはまったく自由がないのだ。 が。菜乃花の夫は含み笑いをした。 「僕は分家ですよ。この家には住まない」 「え……じゃあ、どこに……」
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