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「新婚といえば?」
「初夜」
きっぱりと答えた菜乃花に新郎は笑った。漆黒の瞳が弓形になる。凛々しく冷たげで美しい顔立ちから溢れんばかりの笑みだ。
「そういうことだったら尚更、この家ではないだろう。僕は跡取り息子ではない。さあ行こうか」
「新居にですか?」
「君、何のために着替えたの?」
「な、なんのためにって……」
菜乃花は一瞬だけ躊躇ったけど、直感に従ってきっぱりと答えた。
「あなたのために私は着替えた」
「そう」
新郎は笑った。破顔した。
クールで知的で細身で美しい男が、絵もいわれぬほど無邪気に笑う。
「君は俺のためにきがえたんだ。そして俺は君のために着替えた。さあ行こう」
「だからどこへ?!」
「君も言ったじゃないか。『今夜は?』」
「初夜」
瞬発力よろしく、きっぱりと答えた菜乃花に、新郎は爆笑している。
「そうだよ、ところで菜乃花」
「今度はなに?」
「君、僕の名前、知ってる?」
「……」
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