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「君、面白いよ。ぷぷぷ」
「失礼ね。そもそも結婚式前にお父様経由で名前くらい教えてくださるのが礼儀じゃなくって?それとも華族の血よりも私は花街の血の方が多く流れてるのかしら。その点で私を見下しているのかしら?」
「そんなことはひとことも言ってない」
口元は微笑んでいたが、目はまったく笑っておらず、新郎は菜乃花を覗き込んだ。そして指と指を絡める。
「ちょっ(と、なに?!)」
思わず声を上げた菜乃花に、新郎は「この指に流れてる血は何色だと思ってる?」
「赤だしょ、そりゃ。虫じゃないし、私は」
「僕にも赤い血が流れてる」
「……(はい)?」
「同じだ。花街だろうと華族だろうと士族だろうと。男だろうが、女だろうが。人間には人間の血が流れている。なんの違いがあろうか。もしあるとすれば、それは『違う』という思い込みだ。全ては科学で解決できる。
だが」
「?」
「だが、『君は面白い』」
再び、ぷぷぷ、と笑う新郎に背を軽くエスコートされ、菜乃花は縁側をゆっくりと歩く。
「もんの凄く広い屋敷ね」
「そうだね」
「昼間見たらこの庭ってどうなの?」
「常緑樹が多いね」
「……常緑樹……」
「庭木の役目は二つ。一つは外から中を見られないためだ。もう一つは景観。中から隠れながら外を見るためだ。
常緑樹だが、景色の移り変わりを楽しむことができる。
真冬には椿と山茶花(さざんか)
春に向かって沈丁花(じんちょうげ)
夏に向かって山梔子(くちなし)
秋に向かって金木犀(きんもくせい)
果実として檸檬(れもん)や柚子(ゆず)
良い庭だよ。昼間見たいかい?」
「見たいわ」
「そう。でも僕は次男だからね。結婚した今となっては分家になるからね。敷居は高いね」
「そう。ならば、見なくてもいいわ」
「なるほど。では、君と僕の庭を、常緑樹で埋めよう」
どうでも良い会話を続けて、玄関に向かう。
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