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「ああ」
菜乃花に対しても素っ気ないものだった。
「それでは失礼します」
漣磨もあっさりと言い、退出を菜乃花に促す。
部屋を出る。
と、襖をピタリと閉める。
ちょっと気まずいな、と菜乃花は思った。
が、金持ちの家とはこんなもんだと思うし、そもそも花柳界で育った菜乃花からしてみたら、男と女の演技を見慣れているわけで、情感なんて嘘くさいものでしかない。
「でも礼儀正しいとかスジを通すとか大義名分は大事だと思う」
菜乃花は小声で言った。
漣磨の頬が微かに動いた。
「それをきちんとできた漣磨さんは立派な方だと思います」
菜乃花は漣磨の顔を見ずに小声で続ける。なんとなく、表情など読んではならないと思ったからだ。
そして仄暗い廊下を二人して歩いた。
並ぶことはない。この廊下をそれなりに知っているのは、ここが実家である漣磨だ。漣磨の後ろをそっと菜乃花はついていく。漣磨の姿勢は正しく、足首は白く美しく、その袴さばきも見事だった。育ちの良さが所作に現れている。なによりも感じ取れるのは彼がよく鍛錬されていると言うことだ。機敏な動きではない、が、逆に筋肉をよく使っているのが感じられる。そして、日本人としては幾分作りが大きいな、と菜乃花は考えた。彼は全体的に日本人離れしている。
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