彼女ごみ

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 僕は彼女と別れた。僕は彼女を心底愛していた。彼女は優しく、料理が上手くて、品があって性格も良い、素敵な女性だった。僕は今でも彼女が好きだ。  傷心を理由に友人と飲みに行った帰り、繁華街をトボトボと歩いていた。地面に吐き捨てられたガムやタバコの吸殻よりも不幸な自信があった。大きなため息をついたとき、声をかけられた。その声はいかにも怪しく胡散臭い声だった。 「お兄さん、ずいぶん落ち込んでるね。どうだい話でも聞いてやろうか」  フードを深く被りマスクをつけた占い師だった。古ぼけた机を構えて座っている。普段は無視するような相手だったが、落ち込んでいたからか気づけばその占い師の前に座っていた。 「・・・そうか、彼女と別れたのか。しかもまだ彼女を愛してるときた。なかなか厄介だね」 「そうなんだよ!一体僕の何が悪かったのか・・・。まだこんなにも愛しているのに」 「どれほど愛していると言えるかね?」  僕は振り返り、繁華街を歩く人々に目を向けた。真っ直ぐ歩けないほど人が多い。 「そうだな・・・、この繁華街の人ごみの中からでも彼女を見つけ出せるよ」  僕は眉を吊り上げて言い放った。 「ほう・・・、それは面白い。じゃあひとつ試してみようか」  占い師がそう言うと繁華街の人間が僕と占い師を残して誰もいなくなった。占い師は怪しく笑って指を鳴らした。 「・・・・・・なんだこれ?」  占い師が指を鳴らした途端、繁華街が彼女で溢れた。正確に言うと、彼女に似た人たちだった。 「簡単な話だよ。この中から本物の彼女を見つけ出せばいいだけだ。見つけ出せればよりを戻してやろう。どうだい、至極単純だろう?」  僕はこの現状を完璧に理解できなかったが、彼女を取り戻せることは分かった。僕は立ち上がり繁華街を見渡した。 「十分が制限時間だ、さあ始めてくれ」  占い師の言葉を背中で聞きながら駆け出した。  もう何人の彼女を見たか分からないが、まだ本物の彼女には会えなかった。だんだん頭の中に浮かぶ彼女の顔が霞んでいく。占い師の笑い声が聞こえる。 「あと一分だよ、さあ見つかるかな?」  嫌な汗が流れる。周りの彼女の顔が全て同じに見えてくる。もう残り三十秒を切った。もうダメだと崩れ落ちそうになった瞬間、目の前に立つ彼女を見つけた。 「・・・見つけた!」  僕は彼女の手を掴んで抱きしめた。 「そこまで」  占い師の声が響き、振り返るとそこには占い師が立っていた。 「見つけた、これが僕が愛している彼女だ」  占い師がしばらく僕を見つめ拍手をし始めた。 「おめでとう」  その言葉と同時に僕と本物の彼女を残して、占い師と彼女たちは消えた。  包丁がまな板を打つ音が響く。料理の匂いが広がり食欲をそそる。リビングからは、テレビ番組に笑う大声と食事を催促する怒声が聞こえてくる。僕は愛してやまない彼女と結婚をした。幸せに満ちた生活が待っていると思っていたあのときの自分を殴ってやりたい。  あのとき、占い師と会ったとき僕は偽物の彼女を摑まされたと、料理をしながらそう思った。
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