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明らかに狼狽えた様子で、会長は黙り込んでしまう。
母なんかに掴まったせいで、この人も哀れなものだ。母は蛇のようにねちっこい性格をしているから、簡単には逃がしてはくれない。もしかしたら、会長はもう逃げ出したくても逃げ出せないだけで、うんざりしているのかもしれないな。
『私たちの関係を続ける為には、二人が邪魔だと思うの』
夫を殺すだけでなく、会長の妻まで殺すつもりなんだろうか。なかなか過激なことを言いだしたな。
笹野さんを見ると、なにそのワクワク展開はというように、期待に満ちた顔をしていた。それでこそ、笹野さんだ。
「ここで止めるよりも、どういう計画なのか知ったほうがいいよね」
笹野さんは頷いてから、ポケットに入っていたスマートフォンを取り出した。
録音アプリを開き、開始ボタンを押すまでの彼女の動きはとても素早い。もしかすると、頻繁に盗み聞きでもしているのかもしれない。
『邪魔って、まさか』
殺人の相談をされるとは思わなかったのだろう。会長の声はうわずっている。
『ええ、そうよ。あの子たちをなんとかしないと』
ドクンと心臓が跳ねた。あの子たちって――まさか笹野さんと僕のことなのか。母がとんでもないことを考える人だとは分かっていたつもりだったけれど、ここまでとは。会長も僕たちと同じ予想だったのだろう。返事が随分遅れたから。
『まさか、君は子供たちを殺そうって言っているのか? 俺はてっきり』
『てっきり何かしら』
母の調子はいつもと変わらない。悪いことをしているという意識もないのかもしれない。
『君のご主人と、俺の妻を殺すって話かと……』
会長の声は弱弱しく、怯えた様子だ。逃げ腰なのが伝わってくる。
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