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「二人とも、もう別れて!」
急に僕の手を握ったかと思うと、笹野さんが僕の横に立って大きな声で言った。
「私の大切な森緒君をこれ以上傷つけるなら、私が二人とも毒殺しちゃうんだから!」
「何それ……、持っているだけって言ったのに」
笹野さんが、あまりに突拍子もないことを言うから、笑った拍子に我慢していた涙が零れてしまった。
「分かりにくいかもしれないけれど、森緒君はお母さんのことをずっと心配しているんです。さっきだって、お母さんが人を殺しちゃうんじゃないかって、本気で心配していたし。死んじゃうくらいなら、二人が愛し合っていてもいいって言っていたんです。十分でしょう。森緒君は、お母さんのことをちゃんと愛しているんだから。もう、こんな風に試したりしないでください!」
みんな黙り込み、怒られた母は目をぱちくりさせていた。
違うよ、笹野さん。あの人は僕のことなんて、そんなに考えていないんだ。
「夏菜子、羽風君。傷つけてすまなかった。もうこれ以上は続けるべきじゃないって、今更ながらにわかったよ。本当にすまなかった」
顔を上げると、会長は僕と笹野さんに深く頭を下げていた。笹野さんの言葉が届いたのは、会長のほうにだったらしい。
「そうね。残念だけど、もう潮時なのかも。別れましょう。笹野さん」
母があっさりそう言うと、会長は少し驚いた様子だったけれど、すぐに神妙な顔に戻り頷いた。
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