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「でも、そんなにたくさん買い込んだら、本当に殺したときに、すぐに疑いがかかりそう。森緒君のお母さんは、それでいいのかな」
どうやら彼女は、真剣に母の心配をしてくれているらしい。事件を起こしたあとのだけれど。
「できれば、殺さない方向に持っていきたいんだけどな」
少しだけ、彼女は残念そうな顔をした。
「森緒君のお母さんは、買った毒植物をどうやって使うつもりなのかな」
「それなんだよ。笹野さんだったら、どう使う? さっさと殺したいなら、トリカブトとかを使うんだろうけど、それじゃあすぐに掴まって終わりだろうしな。いくらあの人が考えなしだと言っても、そこまで分かりやすい方法では殺さないと思うんだよね」
彼女は、うちの庭に置かれた毒植物の使いみちについて、頭を捻っているようだ。
「森緒君のお母さんが買った毒植物の中だったら、スズランが一番使い易そう」
「どうして」
「スズランってね、花粉や活けた水にさえ毒性があるの。花が小さいから、コップに活けて、テーブルに飾っておいたら、料理に誤って花粉が落ちちゃったとか、飲み水のコップと間違えて飲んでしまったってことにもできなくはないでしょ」
「なるほど。これから僕は、出しっぱなしの水は飲まないことにしよう。他にも僕の気づいていない毒植物があるかもしれないし。笹野さん。今日暇だったら、僕の家に来て、どれが毒植物なのか見てくれないかな」
恋愛成熟度の上がった笹野さんは、家という僕のテリトリーを表す言葉に、即無表情になった。果たしてこの顔は、嫌なのか良いのかどっちなんだろうか。無理強いはしたくないんだけど。
しかし、考えあぐねるまでもなく、それはすぐに解決した。笹野さんがまた、足でハートマークを描き始めたからだ。
「よし、笹野さんが行きたいならすぐに行こう。毒植物とオプション付きで」
「行きたいなんて」
「足が言っていたよ。僕の家に行きたいってね」
「足?」
彼女は自分の足を見て、首を傾げていた。
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