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《龍川敬大》
朝6時、敬大くんは毎日早朝のジョギングに出かけていくはず。
アパートの入り口が見える位置、遠巻きに壁に隠れて敬大を待つ。
一目だけでも、その姿を見たい。
元気にしているところを…
そしてその瞬間はやってきた。
アパートの玄関のドアが開いた。
そこには、変わらぬ姿の敬大が…
(敬大くんだ…元気そうだな)
少ししっかりとした身体つきになっただろうか、遠目からは分からないが…とにかく元気そうな姿に安堵する。
そのまま、敬大はジョギングに出かけて行った。
敬大の姿が見えなくなってから、ゆっくりと動くあずま。
アパートの入り口を入ったところにある集合郵便受け。
敬大くんの部屋は102号。
その郵便受けに、三年間貯めたお礼のお金をビニール袋ごと中に押し入れた。
全て入らなくて少しビニールがはみ出てしまったが…
「ありがとう敬大くん」
こんなことをして、敬大くんの迷惑になるかも知れない。
けど、このお金も、どうせなら未来ある敬大くんに使って欲しいから…
三年も経っているのだから、忘れ去られていて当然。
捨てられるならそれでもいい、とりあえず敬大くんの手に渡ったなら、それで満足だから。
郵便受けを離れ、敬大の部屋のドアの前まで行ってみる。
「敬大くんが三年間、ここに住んでいたんだな」
そっとドアに触れ、ドアノブに手を触れさせる。
あれから彼女は出来ただろうか、野球はレギュラー取れたかな…
「ゴホッコホッ…っ」
不意に咳をするあずま。
「行こう」
誰かに見つかる前に…
息をついてアパートを離れる。
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