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《名前を呼ぶ声》
敬大は…
ビニール袋の中身を確認して、慌てたようにアパートの外の道に出てきた。
そして…
「あずまさんッ!!あずまさんだろ!!」
大声で叫ぶ敬大の姿。
(…え?)
一瞬何が起こっているの分からなかった。
三年も経つのに、自分の名前が呼ばれている。
じわじわと、胸が熱くなって、涙が溢れてきた。
(…覚えていて、くれたのか…)
こんなおじさんのことを…
「あずまさんッ!どこだよ!?…まだ、その辺に…」
敬大は辺りを見回して、慌てて走り出す。
その後ろ姿を、涙でよく見えなくなった瞳をこすり、大切に見つめる。
(私からのものだと、分かってくれた…)
この三年間の苦労が報われた瞬間だった。
もう、私に悔いはない、お礼も渡せた。
敬大くんの元気な姿も見ることが出来た。
何より、こんな私のことを忘れないでいてくれたことが…嬉しくて…
「っ…行こう」
涙をぬぐい、立ち上がる。
拍子に咳が出るが、もう苦しくなんかない。
敬大くんが戻って来る前に…
また、迷惑をかけてしまわないように。
身を縮めるように俯いて、敬大とは逆方向に歩き出す。
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