《また逢える》

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《また逢える》

「あの場所を見て行こうか」 この街を去る前に、敬大と初めて出逢った橋の下… どうなっているのか気になって… 土手を少し降りて、昔住まいのあった場所へとたどり着く。 「何もないな、けど、水没はしてないな」 あれから三年も経ったのか… 敬大くんとはここで出逢った。 こんな私に、挨拶を返してくれたのは、あの子だけだったから。 本当に優しい子… 昨日のことのように思い出せる。 敬大くんに、恩を返すことだけを生きがいに今日まで生きてきたから…。 あとは、寿命が尽きるのを待つだけだ。 住処があった場所に腰を下ろし、感慨深く川を眺める。 色々あったな…。 そこへ… 一際大きな声が… 「按司眞(あずま)さんッ!!」 「…っ!?…敬大くん?」 土手の上には、敬大の姿。 まっすぐこちらを見ている。 慌てて立ち上がるが… 「…嘘だろ、本物のあずまさんだ…」 そう顔をほころばせ驚き呟きながら土手を駆け下りて来る。 「やっと、見つけた!!」 そのまま駆け寄りぎゅっと抱きしめる。 「っ!…あ、君の服が汚れるから…」 「構うもんか!もう離さないからなッ」 「……敬大くん」 抱きしめられ… 久方ぶりにひとの温もりを感じる。
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