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《不意打ちキス》
「関係あるんだ、敬大くん、君と私では住む世界が違うんだ」
「なんで、どこが!?」
「見ての通り私はホームレスだ、社会の厄介者だ、君みたいなまともな子が関わっていい人間じゃないんだよ」
「関係ないよ、そんなの、俺はあずまさんと一緒にいたいんだ!」
「…ありがとう、君は優しいから貧しい私をほっておけないだけなんだ、っコホッゴホッ」
不意に咳き込むあずま。
「あずまさん咳してる、風邪?いいからうちで休んで」
その背を優しく撫でながら心配する。
「っ、私は大丈夫だから、大学遅れたらいけない、早く帰りなさい」
あずまは小さく咳払いをして…敬大の胸を押して離れながら促す。
「嫌だ、あずまさんを連れて帰るまでは動かないから」
そう真っ直ぐに見つめる。
頑なな敬大の姿に困惑するあずま。
「敬大くん…」
「さ、行きましょ!お腹すいてるでしょ、一緒に何か食べましょ」
「いや、行けないから」
さらに腕を引いてくる敬大に、首を振り断りながら離れようとするが…
「じゃ、連れて行きます」
不意に敬大は小柄なあずまの足元と脇をすくうように抱き上げる。
「っ!?ちょ、敬大くん!?」
びっくりして敬大の背にしがみつくあずま。
「軽っ!…帰りましょ、部屋で俺の話聞いてください」
「敬大くん、降ろして…私は汚いから、君の服が汚れて…」
「あずまさんは汚くなんかないっす、可愛いおじさんです」
そうがっちり抱えたまま、一度頬を寄せ、ヒゲの隙間から見える唇へキスを落とす。
「け、敬大くん…?」
こんな髭面のみすぼらしい男に…
思わぬ事に固まってしまう。
「また触ることが出来た…戻ってきてくれてありがとう、おかえりなさいあずまさん」
優しく微笑み、感謝を囁き、大切に抱きしめて、我が家を目指し走り出す敬大。
「……」
抱きしめられながらも、これが現実のことと受け止めきれないまま、敬大に迷惑をかけてしまうことが不安で、どうすればいいのか困惑してしまうあずまだった。
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