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4 断る隙は与えられなかった。
「この間の披露宴では途中で帰ってしまって、本当に申し訳ありませんでした」
玄関に入ってすぐ、持田さんは頭を下げた。
だが出迎えた奥さんらしき小柄な女性は、少々様子がおかしかった。
お姫様のようなピンクのドレスを着ていて、髪の毛は金髪の縦ロール、頭の上にのっている大きなリボンもピンクだ。仮装大会でもしているのだろうか。
「悪いと思うのなら、まず、これに着替えてもらえますか」
「はい?」
持田さんが手渡されたのは、中世の王子様のような衣装とマントだった。持田さんは怪訝な表情で奥さんを見ている。
「えーっと、これは一体どういう」
「お手洗いはそちらです。時間がありませんから。早く」
持田さんは気圧されて、そのままトイレに入っていった。
残された僕は、とても気まずかった。
奥さんはじっと僕を見ている。僕の頭から足の先まで確認すると、ウォークインクローゼットに姿を消す。
戻ってきた奥さんは、赤いドレスと金髪のゆるふわなカツラを手渡してきた。
「あなたはこれで。そちらの部屋で着替えてください」
連帯責任というやつなのだろうか。断る隙は与えられなかった。
ドレスに着替えながら、僕は思っていた。
なんで僕はこんなことをしなければならないのだろうか。初めて持田さんにプライベートで誘ってもらえたと喜んでいたのが馬鹿みたいだ。
小柄で童顔な僕は、小さい頃からよく女の子に間違われていた。鏡に映った自分は、完全に立派なお姫様だった。赤いドレスと金髪のカツラも無駄に似合うのが泣けてくる。
「あら、可愛らしい」
僕の姿を見た奥さんはニコニコしている。喜んでもらえたのなら本望だと思うしかない。僕は愛想笑いを浮かべる。もうやけくそだった。
「あの、こんな感じでよろしいでしょうか」
王子様の姿をした持田さんは素敵だった。宝塚にハマる女性の気持ちが少しわかったかもしれない。
「じゃあ撮影会始めましょうか」
「撮影会?」
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