適温

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花火が上がる。 一緒に見たかったその人はいない。 自分が熱いと感じていれば、相手は冷たいと感じているのだろう。 そんな恋が終わった。 悔しくて悲しくて虚しいはずなのに 輝く夏の夜空を眺めにきた。 三千発の大輪を滲ませた失恋の雫を、噛みしめていた。 祭りの人ごみの中、誰かが僕の手を握った。 その手は細く長い指だった。 ひんやりと、僕にだけ涼しい風が吹いたようだった。 なぜか僕はその手の先を見なかった。 そのまま握っている事にした。 向こうから握ってきたのだから、それでいいと思った。 その手はずっと僕を離さない。 だから僕も握り続けた。 一人で見にきたはずの花火を誰かの手を握りながら見た。 その手は冷たくて残暑にはちょうどよかった。 花火が全て打ち上がり 夏が終わって 秋が来て 年を越えても 僕はその手を離さなかった。 その手も僕を離さなかった。 どの季節も僕の手にはその冷たさがちょうどよかった。 やがて十年経ち、二十年経ち、 五十年が経っても、その手は冷たいままだった。 そしていつまでもそれでよかった。 最期の病室のベットの上でも、僕はその手を握り続けた。 やっぱり冷たかった。 だがやっぱりそれでよかった。 「あなたの手はずっと暖かいまま。あの夏から変わらずに。」
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