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三
東郷が帰った後、私は向日葵をまた入れて卓袱台に顔を伏せていた。何時の間にか寝ていた。何かの音が聞こえる。聞き慣れた心が落ち着く音だった。其の音は何だろうか。私は目を開けて耳を澄ます。静かに聴くと音の正体が解った。雨だ、朝はあんなに晴れていたのに今ではもう雨が降っているのだ。座った儘居眠りしていた為、下半身は痺れていた。立ち上がろうとしたら更に痺れが体中に走った。自分は小さく呻き声を上げ倒れ込んだ。まさかこんなに痺れるとは思わなかった。其の儘、痺れが落ち着いては安心したかの様に息を吐いた。ゆっくりと上半身を起こし立ち上がった。硝子窓を見れば、やはり雨は降っていた。外は水溜りが溜まっていたり雨の為あまり居なく。少ない人が傘を差して居た。生憎、自分は傘を所持はしていない。此の儘廊下に出て玄関まで行っては一度座り込んだ。あの東郷の言葉を思い出したのだ
「一ヵ月だけでもいい」
だが私は首を振って靴を履き、何も持たない儘、雨の降る外に出た。ピシャリピシャリと足音が鳴る。雨が私の衣服や髪、体に当たる。少ない人とすれ違うが皆、声をかけずに過ぎ去る。徘徊をしていると川の近くまで来ていた。目に入ると少し見開いた。死にたいと思ってしまった。後、後一ヵ月だけでも生きてみようと思ったのにだ。どうしよう、どうしよう、そう心から思い。唇は震えていた。此の儘、足を川の方に運んだ。腰に川が来た時には雨は少し強くなっていた。そして、体の全てを川に沈めた。目を瞑った。空気を吐き、意識は朦朧として行く。だが、痛い。けれど、死ねるならそれで良いなんて思っていたが自分以外の誰かが川に入る音が聞こえた。まさかと思った。また、偶然通った関係ない人に止められるのか、やめて呉れ、私は死にたいのだ。止めないで呉れと心の中で願った。だが、それは空しく、私は抱えられ川の外に出された。私を救い出したのは大柄な男性だった。そして近くには女の声が聞こえていた。
「あんた、その人大丈夫か!」
朦朧な意識でも大きな声が聞こえていた。何処ぞなく沢山の声が聞こえた。幻聴なのか、若しくは野次馬なのだろうか。私はそう思い、意識を失った。最後に野太い男性の声が聞こえた。
「お、おい」それだけが聞こえた。あれから深い眠りに着いた。とある、夢を見たのだ。其れは其れは暗い黒だけの空間であった。周りを見ると見覚えのある背中が見えた。迚、迚、覚えのある背中だった。そうだ、私の父と母だった。私は追いかけた。だって、だって、二人は私が幼い頃に亡くなったのだ。
「お父さん、お母さん、待って欲しい」
私は必死に声を上げて、追いかけていた。もはや今、私が居る所は夢ではなく現実なのだろうかと考えた。走っても走っても、追い着くことはなかった。其の儘、夢からハッと目を覚まし、上半身を起こした。息は荒く、息切れを起こしていた。汗も流れていた。なんだ、夢なのかと私の心は絶望に絡まれていた。何故、死ねなかったのか。何故、一ヵ月我慢できなかったのか、罪悪感しかなかった。ふと、周りを見ると病室だった。ああ、前の様に送られたのか、心底そう思った。左を見ると小さな花が入った花があった。だが、興味はなく私は目を背けた。複雑な心に絡まれ心が痛くなった。だから、それを忘れる為に寝ることにした。
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