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冷静に其の様に往なされ、叢雲は拳を握り締める。
「無いわけではありませぬが……」
「では、部屋を手配しよう。取り敢えず、本日は長旅の疲れを癒すと良い。明日は、皇家の者を集めそなたと顔を合わせて貰う」
冷たい声に、拳を握り締め俯いた叢雲であった。
其の後。落胆と共に、あてがわれた部屋へと荷物を下ろし腰を落ち着けた叢雲は、最早溜め息しか出なかった。期待した雰囲気は無く、最悪な身内との顔合わせだったと。此の部屋もそうだ。美しく立派ではあるが、只広くて落ち着かない。そんな叢雲は、荷物の中より一管の笛を取り出した。部屋を出た叢雲へ、見張りも兼ね、控えていた武官が声を掛けた。
「叢雲殿、何方へ」
「庭です。庭なら良いのでしょう」
叢雲は、煩わしげに視線すら向けず、庭へ向かおうとする。
「では、共を……」
付いて来ようと腰を上げた武官へ、叢雲が足を止め振り返った。
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