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「止めて下され。息が詰まりまする」
そう言う叢雲が、武官を睨む、ではないが、少々強く視線を送ってしまった。すると、其の武官は青褪め拜をするもので。一刀と同じ容貌と声に、一刀へ言われた様な気がしたのだろう。
「し、失礼致しました……!」
そんな言葉と共に畏まられ、戸惑う叢雲。此の武官へ、少々申し訳無いと思いつつも、付いて来るのは止めてくれる様だと、庭へと足を進めた。
流石御所の庭と、感銘を受けた叢雲。美しく整えられ、移り行く季節を楽しめるように工夫がなされている。只、ふと目に入ってくる此の空間を囲う高い壁が残念ではあるがと。
叢雲の育った村は、文化的な発展は乏しいが、何せ緑豊かで海も近い。移り行く季節は、最大限に楽しめる。広くて、心地好くて。しかしながら、野良仕事や漁等で生涯を終えるのはと、華やかな都へ憧れ、旅立つ若者が増えていくのは止められない。仲が良かった幼馴染み達も、身を固めたや、職にありつけたと都へ、又はもう少し発展した町や村へと。更に、唯一の肉親であった母迄を失い、孤独感は増すばかりだったのだ。そんな中、母の遺品整理から書状を見付け、相談した役所の者の尽力に此の都へ来てみたが。来てみても、惨めな思いをしただけだった。そして、挙げ句の軟禁状態。
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