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「何だよさっきからっ……どうしてそんなに他人行儀なのさ……意地悪なら怒るよ。此方へ来て欲しいけど、私が行っても良いなら行くよ?」
此の提案を、何より待っていたのは。
「どちらでも宜しいので、早く決めて下さいませ、錦様……辛(つろ)う御座います」
嘗ては植木のみで隔たれていた、後宮の庭。何を思ったか、一刀が突如高い囲いを造る様に命じたもので、其れ以来こんな役回り迄頂く事となった時雨。錦を肩に乗せ、低い声にて。
「一刀、何方か決めて!時雨が可哀想だよ」
時雨を案じるかの様に、一刀の判断を伺う錦だが。
「錦様の御用命にて、こうして居るのですが……」
時雨は、突っ込まずにいられない。取り敢えず、そろそろ降りないかと。一方の叢雲は、何故かよく分からぬ判断を迫られ、戸惑う姿。
「す、好きになされては……?」
と言うしか無いだろう。が、錦は叢雲を睨んでいる。
「止めてくれよ、其の言葉使いっ。いいんだね、出るよ?」
そう言いながら、一度引っ込んだ頭。呆気に取られながらも、思わず吹き出す叢雲。
「何なんだ、あの娘は……」
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