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笑みと共に、つい出た呟き。一方、時雨の肩より降りた錦は一度後宮の庭より出る為、足早に廊下を通る。私室を過ぎる錦の姿に、只今控える小夜が声を掛けた。
「まぁ、后妃様?其方は後宮より出る事になりまする……!」
止める小夜に、進む足を止めずに笑顔で振り返った錦。
「大丈夫!一刀が許してくれたんだ!」
あまりにも嬉しそうに、そう告げる錦へ小夜も微笑んでしまう。
「左様に御座いまするか。お気を付けて行ってらっしゃいまし」
拝して見送った小夜を背に、後宮の廊下を出ると、更に其処より庭へと駆け出す。一刀、いや叢雲の姿を見付け、錦は其の胸元へと飛び付いてしまった。驚く叢雲。其れは、そうだろう。一瞬何が起こったのか、胸元におさまるのは、先程見た美しい笑顔。
「来たよ!さぁ、笛を聞かせてよ!」
「あっ、は、はい……っ」
鼓動が高鳴るのを感じる。頬も熱い。叢雲は、不思議な感覚に戸惑う以外無いが、錦へせがまれるまま、唇へ笛を近付けた。先程奏でた一曲が錦の耳へ届く。錦は、其の美しい旋律と、笛を奏でる叢雲の横顔にうっとりとしている。
望みのままに、奏でて貰えた錦は惜し気もなく美しい微笑みを浮かべていた。笛を下ろした叢雲へ、身を寄せる錦。
「素晴らしかったよ!やっぱり、何でも出来るんだね!とても、美しい音色だった……」
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