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そんな東の御所に、とある大事が起こった。
其れは、在る秋の日の事。帝、一刀へ拝謁を願い出ていた東でも都と離れた田舎町に住んでいた男の届けが、漸く受け入れられた事が切っ掛け。何でも、帝へ亡き母が持っていた在る証書を御覧頂きたいとの事。しかし、帝は勿論暇では無い。一国民が拝謁を許されるには、其れなりに条件を要する。なので、此の奇妙な届け出の重要性等を確認する為に、其の地を管轄させている官吏へ審査を命じたのだが、あっさり許可が下りた。つまり、帝の御前へ赴くに足る要件であると言う事だ。
其の日。秋の色を飾った、木の葉が散りゆく東の御所前にて、深く傘を被った粗末な身なりの男が佇んでいた。薄絹で、瞳以外を覆った姿は少々怪しげにも見えるが。御所前の門番へ許可証を渡すと、訝しむ表情を浮かべられたものの、門は開かれた。手を腿へと付け、一度静かに頭を下げる男。そして、徐に中へと足を進めたのだった。
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