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「御初に御目に掛かりまする、帝。私、名を叢雲(ムラクモ)と母より賜った者に御座いまする」
そう名を名乗る男――叢雲――。一刀は、まだ声を出せない。一刀の動揺を誘ったのは、彼の容貌。何と、鏡を前にしているかの如く己と瓜二つであったのだから。更には、声までもが。
「私は、一刀と父より賜った」
一刀は動揺がおさまらぬ中、取り敢えず儀礼だけを。
「此の度、亡き母が持っていた証書を確認して頂きたく、参りました」
叢雲は、言いつつ懐へとしまっていた丁寧に折られた紙を取り出した。其れを、一刀へ厳かに掲げる。何とも言えぬ感覚だ。己へ、畏まられる等と。眉間へ皺を寄せる一刀へ、取り敢えず我に返った陽炎が、叢雲の手より其の証書とやらを受け取った。そして、一刀の手へと渡す。此れは、一体何だと言うのか。徐に開いた其の書状に、一刀は又も驚きを隠せなかった。
「此れは……」
静かではあるが、動揺が見える声。叢雲は、そんな一刀を只見詰めている。同じく、美しくも冷たい瞳で。
「此れは、真そなたのものか?」
「母が、隠し持っていたものに御座います」
一刀は、再び其の書状へ視線を落とす。其れは、帝のみが許される特別な印が確りと押された書状。其の内容は、『帝』が子を認知するといった内容のものだ。只、署名が無い。更に、誰の、何と言う子をかもだ。しかし、悩ましいのは此の印である。此れは、『帝』の位を持つ者のみが手に出来るもので、管理も本人。つまり、現在は帝である一刀のみが常に管理しているのだ。奪う事は不可能。其れは確信出来るにしても、あまりにも不可解である。真偽を明らかにする為、調査が必要だ。とは、言え。
「鏡を、見ている様だ……」
「私も、同じ思いです」
血が通うているとしか思えぬ此の見目は、どう説明つけるのかとも思うが。
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