彼の人。

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「しかし、其の村に居たのは確かなのだろう?」  話を変えようと、書類に関する追及を促した一刀であったが。 「一応は」  久遠の言葉に、一刀が眉を潜めた。一応とは、と。久遠は続ける。 「随分過去のものになると言うのもありますが……にしても、大雑把過ぎる記録なのです。藍の地にて叢雲殿を出産する迄は、消息が曖昧である可能性も。片親への補助等も受け取っていない様子でして、御母堂の書類は、本当に最低限です。まるで、隠れるかの如く……此処が、私の気になる処で。隠密の情報が、糸口になるやも」  頷きつつも、思わず出る一刀の溜め息。やはり、謎が多すぎる。可能性はあれど、やはり此れでは認めるわけにもいかない。  弓を構え、遠くの的を見据えた一刀。程無く、矢が放たれた。雑談をして盛り上がっていた三人も、其の矢の音に気が付く。 「外した」  一刀の乾いた笑いと共に出た声。放たれた矢は、中央より僅かにずれた位置に射られていた。
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