瓜二つ。

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「そなたの素性、此方の書状も厳密に調査する必要がある」  本音はさておき、一刀は叢雲へとそう告げた。しかし、叢雲は少々訝しむ様な表情を浮かべている。 「其れだけで、お認め頂けませぬのか?」  叢雲にしてみれば、此の様な証書迄手にして、更には瓜二つの容顔迄晒した。だと言うのに、まだ疑われるのかと。一刀は、表情無く静かに叢雲を見詰めた。不服そうに、己を見詰め返す瞳。此処で少し、己と違う顔である様だと感じた一刀。其れは、叢雲の表情に、心が見えること。 「此れには、我が父の署名が無い。『帝』と書いていても、此れでは父かどうか判断出来ぬ」  静かに再び諭す一刀は、手にしていた証書を丁寧に折り畳むと、机上へ置く。 「では、其の印はどう説明して頂けるのですか。偽造等、出来るものなのですか」  そう。此の印が一刀を悩ませている。偽造が可能か否か。己の答えは、不可能であると。更に此れを、どうやって奪うと言うのか。『帝』から。此の印を出す場合は、本当に誰の目にも触れさせない。其れは例え后妃であれ目にする事は無い。 「其れも、調べねばならぬ」  複雑な思いと疑念はあるが、冷静かつ慎重に対処せねばならない。叢雲がもし父、天狼(テンロウ)の実子であるならば、捨て置くわけにはいかないからだ。一刀の心情とは又違った思いがあるのだろう叢雲は、酷く哀しげな瞳であった。一刀は、眉間へと皺を寄せる。己には、やはり無い表情だと。
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