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「帝、私は何も貴方様に何かを望むだとか、地位を与えて欲しい等と来たわけではありませぬ……只、天涯孤独となった身の上に『弟』がいるのではと期待し……同じ血が通う貴方様へ、そう認めて欲しかったのです」
そう言いつつ、膝元の拳を握り締める叢雲。震える腕に、偽りや浅ましさがある様には見えないが。
「そなたの心情は分かり兼ねる。しかし、此ればかりは二つ返事では済ませられぬのだ。調査は行う……自信があるのなら、尚の事受け入れてはどうだ」
更に諭す言葉、そして冷たい心見えぬ瞳に叢雲は更に肩を落とす。叢雲の一刀への印象は、良いとは言えるものではなかった。
「随分心無い御方が、兄弟だったのですね……」
皮肉を込めた言葉。一刀は只、冷たく見詰めるだけで、眉ひとつ動かさない。同じ容顔といえ感情と言うものが無いのか、此の男にはと頭の隅で思う叢雲。
「決まったわけではない。認めてもおらぬ」
又も出るのは冷たい静かな声、言葉。叢雲は、落胆の溜め息が出てしまう。
「では、お任せします……私は、此れで失礼致しまする」
一刀へ、拜をした叢雲は部屋を去ろうと腰を上げた時であった。
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