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「ゾウリムシが大人になるの?」
「うん、50回分裂したら大人。だったっけ」
「なら50回チューしても大人になるよね」
「どうかな」
「大人って何なの?」
「ハグしたら遺伝子もらえるんじゃなかったっけ」
「ふーん。ともちゃん」
「なに?」
「やーらし」
「ゾウリムシはかぞくふやすのがんばってるの。細胞分裂してみんなそろって大人になるの」
「すげー。何言ってるかぜんぜん分からない。あ。あの人キョージュなんだよ」
「キョージュ?」
「こないだビスケットくれた。ともちゃんももらえるよ。おなかすくとイライラするからダメなんだって」
「おじさんいいこと言うけど顔がゾウリムシっぽいね。うちのパパの方がかっこいい」
「オレのママはケイタが一番っていつも言うよ?」
「そうだ。けいちゃん、将来の夢なににした?」
「ともちゃんは?」
「もちろん科学者。けっこん相手のみつけ方を研究するの」
「オレにしとけば?」
「もうたんざくに書いちゃったもん。けいちゃんは?」
「なんだっけ。わすれた」
「ずるーい」
二人は駆け出した。通園カバンの中で空っぽの弁当箱が軽やかな音を立てている。
「ほらここ。キョージュは大学の先生なんだって」
「ピカピカな学校だね。大きくなったらけいちゃんといっしょに、あ、まってー」
圭多は逃げながら、こっそりと夢を唱えた。
いつかずっと前にも同じことを願った気がした。
「ともちゃんとチューしたいです」
だから絶対に夢が叶う自信があった。
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