別れた元カレは、ヘンタイでした。

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【※お断り書き。「三行から参加できる 超・妄想コンテスト 人ごみ』参加作品です。公式ホームページの募集概要にあった。(以下引用)・満員電車で痴漢を捕まえた。けどその犯人は、数年前に別れた元カレで……(引用ここまで)のアイデアを使わせていただきました。エブリスタ編集部様にこの場をお借りして、お礼を申し上げます。もし、エブリスタ編集部様から、ご意見などをいただいた場合、予告なく作品を削除します】 【本文】  朝といえども、夏の日差しはつらい。わたしは、プラットホームで電車を待つ。 「1番ホームに電車が参ります」  大都市のホームタウンの駅でも、朝は、ホームドアの前に行列ができる。大学生のわたしも、最後尾に並ぶ。汗のせいでせっかく、朝、ブラッシングした髪がくるんとなっていた。  プラットホームに電車が滑り込んで来た。窓を見れば、人でいっぱいだ。朝は、電車の本数増やして欲しい。電車が停止した。  プシューと音がして、ドアが自動で開く。  降りる人いない!  車内に入って、見渡すが、席は空いていない。シルバーシートは、空いているが遠慮した。  中学の頃、平日の昼間に母と一緒に乗った。車内で立っている人はいなかったが、空いているのはシルバーシートだけだった。  母が座ってしまった。わたしは注意したのに、「シルバーシートが必要な人が乗られたら、譲ればいいでしょう」と言っていた。  高校生になり、同級生と乗ってシルバーシートに座ったら、同級生の子、複数から注意されてやめた。  冷房は効いてる。痴漢とか怖いので、ブレザー制服の女子高校生の子たちが並んで座る席の前で、輪っかに掴まる。  わたしの出身校、赤点(あかてん)高校の制服だ。ピンバッジを見れば、二年生の子と分かる。  他の席にも、赤点(あかてん)高校の女子がちらほら見えるが、この子たちは、優しそうなグループだからだ。  ヤンキーっぽいのが、多くいたら隣の車両に移動だ。  赤点(あかてん)高校に通っていた頃は、ダサいと思っていた。でも、卒業して一年もすれば、懐かしい制服だ。  ここに立ったのは、偶然ではない。二駅後が、赤点(あかてん)高校の最寄り駅があるからだ。  イヤホンを耳たぶにかけた。スマホで音楽を聴く。四角い窓から流れる景色は、徐々に建物に占めるビルの比率が高くなって行く。  住宅街も空き地が少なくなる。次の駅で大量に人が乗ってきたが、今の位置は譲らない。  赤点(あかてん)高校の最寄り駅が近づく。目の前では、赤点(あかてん)高校の生徒達が立ち上がった。  チャンス!  シートに座る。肩から提げたバッグを膝の上に乗せる。わざと俯きながら、溜息を出していた。二駅立っていたが、かなりの時間立ってました、アピールをする。  シートに残る前の人の温もりが嫌だ。一番、身だしなみが、しっかりして清潔感のある子が座っていた席を選べた。  隣の席には、社会人のお姉さんが座ってくれた。服装はスーツで会社員風だ。横顔を見れば明るそうな方だ。声でもかけられそうなので、イヤホンをはずす。  大学生で勉強してますよ。アピールのため、ルーズリーフを、開くかためらう。 「おはようございます」  声かけてきた。明るくはきはきあいさつを返す。 「たまにお見かけしますが、大学生ですか?」 「はい、学生です」  バッグから、大学名が入ったルーズリーフを取り出す。大学の購買で買った。 「国立大の学生さんだったんだ」 「あ、はい。法学部です」  大学名を見せびらかす、つもりじゃなかったのに。 「頭良いんですね」 「ほかの学生は賢いですが、わたしは違います」  しばしの時間、講義のとき、教授がホワイトボードに書いた内容を写しただけの、ルーズリーフに目を通していた。  駅に止まる度、徐々に人が増えてくる。空いてる席はない。目の前もたって乗ってる人ばかりだ。  父と同世代の年配の男性が、立っていた。腰を浮かせながら席を譲る。 「宜しければ、どうぞ」 「ありがとうございます」  車内では、人ごみの間を動くのは、無理だ。わたしは目を疑った。若い女性が吊り皮に掴まっている。頬を真っ赤に染めてうつむいている。  だが、背後で横を向く、男の手が彼女のお尻を触っているのだ。わたしも恐怖で背筋が凍てつくが、男はわたしの元カレなのだ。リュージだ。  リュージと女性、どちらに声をかけるか逡巡したが、女性の前に立ちはだかる。 「すみません」 「あ、ひゃい、はい」  ぼんやりした瞳でわたしを見つめる。先入観は捨てよう。 「痴漢されていますが、後ろの男性とお知り合いですか?」 「…………」  リュージは、わたしだって気づいてない。アイツの手は彼女の胸を触っている。カーッとわたしは頬の皮膚が熱くなる。つま先立ちになり。 「おい、立花リュージ」  リュージは目を限界まで見開いていた。慌てて手を引っ込めた。 「ヤベ」  まだ、状況が呑み込めない、彼女の手首を握っている。この人ごみでは、逃げ場はない。 「カレなんです」 「そうだったの、そうだったんですか」  わたしは肩を竦めて、全身の力が抜けそうだ。馬鹿馬鹿しくなった。車窓からは駅のプラットホームが見えた。  電車が止まれば、リュージと女性は、降りる人並みをかきわけ、こそこそ、逃げ去った。 「同じ趣味の恋人同士、仲良くしてね」  わたしが皮肉たっぷりにつぶやくが、喧騒にかき消された。  リュージと付き合ってた頃、電車に乗ったら、ボディタッチをしてきた。最初は偶然、手が触れたのだ、と好意的に解釈していた。  そのあとも触ってくる。激怒したわたしは、途中駅で降りた。  リュージに面と向かって尋ねたら、人ごみで、カノジョを触るのが好き、と歪んだ欲求を告白した。弁護士志望のわたしはゼッタイ嫌だった。  公然わいせつ罪に問われるからでもある。恐ろしくなり別れた。 ***  数年後、司法試験に合格した頃、のんびり自宅でテレビニュースを見ていた。A国に新婚旅行で行った夫妻が、人ごみでいかがわしい行為をして逮捕されたそうだ。  くだらないので、チャンネルを変えようとしたら、リョージとあのとき、カノジョだった女性の顔写真が映った。  立花夫妻のフルネームだけでなく、住所まで報道されていた。同じ日本人として恥ずかしいわ! (完)  
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