2人が本棚に入れています
本棚に追加
01
17年前 冬
吹雪のなか、馬車は医師を乗せてひた走る、幸いなことに石畳の上に積雪は少ない、だが視界は悪く、がたがたと必要以上の音をら成す車輪は、今にも凍結で滑って路肩に激突してしまわないかと不安になる。
「きちんと城まで行けますか!?」
吹雪の音に負けぬよう、両腕に医療鞄をしっかりと抱きしめて、白衣の男が叫んだ。
「なんとかしてみせます!ほら、行け、行け!」
馬鞭をしならせると馬は嘶いて、地面を強く蹴り上げた。
城に辿り着いた時には医師の後退した頭皮に、雪がへばりつき酷い有様になっていたが、それを払う時間すら惜しく、城門で今か今かと待ち構えていたメイドたちに駆け寄ると、慌ただしく城内へと入る。
「王妃様のお具合はいかがか」
「もう破水しておられます、国王様がついていらっしゃいますが、正直に申し上げますと、全く役にたっておりません!」
「ああ、そうでしょうな」
メイドの言葉に頷く、何時もは気にならない城内の広さが、今はやけに気になり、道のりが遠い。短い足をせかせかと動かして、雪の跡を点々と大理石に残していく。階段を登り、さらに一番奥の部屋へ、扉の前で医師を待っていたメイドやボーイたちは慌てて扉を開いた、部屋に入るなり国王が顔中にパニックを表して、自分よりも頭みっつ小さい医師に駆け寄った。
「イムラン!ああ、よかった、よかった、妻が、妻がっ!!子供がっ!」
「ええい、しゃきっとしまいか!隣に付いて手を握って、」
慌ただしさのなか、彼女は産まれた。
待望の第一子、喜びに満ちたのも一瞬、子の眼が開かれて、そこに居た誰もが息を呑んだ、彼女は他の人間とは違っていた。
国王にも王妃にもない彩光、その瞳は黄金色。
「それは膨大な魔力持ちである証です、国王様、王妃様」
宮廷魔術師ランバートは口元に笑みを浮かべた。
世界にはかつてマナと呼ばれる空気中に漂う自然の力が存在していた、それは魔力と密接に関係し、魔力を持つ人間はマナを介して魔法を使うことが出来た。遥か昔には生活の一部であったが、その後に魔法対戦が勃発し、マナが枯渇。
現代では、自らが気づかないだけで少なからず魔力というものを内包しているが、魔法は使えない。魔法は廃れた文化。人々は機械に依存し魔法に頼ることなど無く、機械でなんでも出来てしまう時代になってしまった。そうした理由から、膨大の魔力持ちであっても、それは意味のなさぬものだった。
最初のコメントを投稿しよう!