逆襲

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逆襲

第六話 逆襲  「ふぅ、やっと終わった」 情弱は溜息をつく。 「これでようやく、本来の目的である政治改革に取り組めます」 「でも、何だかんだいって、この動画、人気あるのよね」 情弱は「おすそ分け」 機能を眺める。 「でも、やっぱり政治はダメダメですね」 情弱は首を振った。 「そりゃそうよ。政治家なんてみんな詐欺師だもん」 「いや、そうじゃなくて、政治の話ですよ」 「ああ、あれね」 ザマ美は苦笑した。 「あれって?」 情弱が訊く。 「つまり、あいつら、結局はお金のことしか考えてないじゃない?」 情弱はうなずいた。 「でしょ。それに気付いていない時点でアウトじゃない?」 「確かに、それは言えてる」 「でも、いいじゃない。わたしたちがしっかり監視してあげればいいんだし」 「ですね」 「まあ、それはそれとして、今月の動画も撮らなきゃ」 ザマ美はホワイトボードの脇に立った。「えっと……」 彼女は手元のメモ帳をパラパラめくると、 「まず、あのボンクラどもは放っておいて、次はいよいよ国会の追及ね」と宣言する。「次のターゲットは与野党の筆頭、厚生大臣よ」 「おおっ!大物!」 情弱は思わず声を上げた。 「まあ、当然、与党は与党でやってくれてるけど、ちょっと気に入らないの」 「どうしてですか?」 「だって、あのボンクラども、自分たちのミスを隠して、責任転嫁しようとしているのよ」 ザマ美が鼻を鳴らす。 「何で?」 情弱は首を傾げた。 「自分たちは『国民』の代理人なのに、『国民の義務』とか言って、勝手に法律を作って、自分たちで決めたことを全部国民に押しつけようとしているのよ」 「えっ!?」 「でしょ?」 「でも、国民には何も言わずに決めることはできないんじゃなかったんですか」 「そうだけど、国民の代表は国会議員でしょ。国民に説明しなくてもいいの」 「でも、議員が法律を作るっておかしくないですか」 「おかしいわよ。法律作る前に国民に説明するのが筋でしょ」 「そんなことしたら混乱しませんか」 「するかもしれないし、しないかもしれない」 「どっちなんですか」 「わからないの。だから、わたしたちの手で調べるしかないの」 「なるほど」 「そこで、あなたにやってもらいたいことがあるの」 ザマ美はおもむろに資料を取り出す。 「何ですかこれ」 情弱は資料を手に取った。 「あなたはバカ正直にアンケート調査に答えていたようだけど、実はこれはフェイクなの」 「えっ?」 「あなたの回答をもとに、この国の現状について、世論調査を作ったの」 「じゃあ、これが本当の調査結果なんですか?」 「そう。で、この調査の結果、この国はとんでもないことになっていることがわかったの」 「どんな風に?」 「たとえば、年金制度についてはどうかしら」 「年金? ちゃんと払ってますよ」 「そうじゃなくて、本当にきちんと受け取っているかどうかよ」 「はい」 「じゃあ、その金額はどうだったかしら?」 「…………」 情弱は沈黙した。「ほら、やっぱり」 ザマ美は呆れたように首を振る。 「えっ、どういう意味ですか」 「考えてもごらんなさい。年金の受給資格を得るには最低五年間、厚生年金に加入していなければなりません」 「はい」 「では、もし国民全員が加入していたとしたら、どうなっていたと思う?」 「どうなってたんでしょう……想像できないです」 「正解はこうです」 ザマ美がグラフを指さす。 「うわっ!」 情弱が目を見開いた。「凄いっ!」 「でしょう」 ザマ美がしたり顔になる。「しかも、この制度は一度崩壊しかけているの」 「本当ですか?」 「ええ。でね、年金の支給開始年齢を六十歳から六十五歳に下げたの。すると、当然、老後の生活が苦しくなる」 「な~るほど」 「他にも、医療保険は? 介護保険料は? 生活保護は? その他もろもろの社会保障はどうなっているの? 国民が負担する額は? 国の負担率は?」 「な、何ですか?」 情弱は慌てふためく。 「よく聞いておきなさい。この国にはとんでもないことが起こっているの」 「は、はぁ」 「例えば、あなたは消費税は3%から5%になった時、どうなったか覚えている?」 「えっと、確か、物が値上がりしましたよね」 「そうよ。でもね、それだけじゃないの」 「というと?」 「増税で困るのは物を買う人だけではないということよ。つまり、企業も困るわけよ。特に法人税は下がる一方だし、そもそも税収自体が減っているわけ。つまり経済も落ち込んでいるのよ」 「はぁ……」 情弱はうなずいた。「そういえば最近景気が悪いですね」 「でしょ」 ザマ美は大きくうなずくと、「じゃあ、次に行こうか」 と言った。 第七話 年金改革法案の行方 「次は、年金制度改革関連法の成立ね」 ザマ美が言う。「でも、残念ながら、今の野党の力だけでは成立させることができないの」 「えっ、そうなんですか?」 「うん。だから、次の選挙では絶対に勝たないとダメなのよ」 ザマ美は拳を握りしめると、「そのために、まずは与党を叩くの」と宣言した。 「でも、どうやってですか」 情弱が首を傾げる。「それはね……」 ザマ美はホワイトボードの脇に立つと、ペンを走らせた。 「まず、第一の標的は厚生労働大臣よ」 情弱は思わず息を呑む。 「厚生大臣は国民皆年金の実現のために、国民一人一人の所得を把握しようとしています」 「えっ、そうなんですか?」 「ええ。だって、そうしないと、国民全員から税金を取ることなんてできないでしょ」 「はい、確かにそうですね」 「でも、国民の個人情報をすべて把握することは無理なのよ」 ザマ美は首を振った。「でも、この男は違う」 「違いますね」 「ええ。だって、こいつ、自分の都合の良い情報だけ公開して、国民からお金を搾り取ろうとしているのよ」 「えっ、そうなんですか?」 「ええ。こいつはね、国民を騙して、自分たちだけが得するように仕向けているのよ」 「酷いですね」 「でしょ。で、こいつも、あのボンクラどもと同じなのよ」 「同じ?」 「つまり、こいつも、自分たちが損しないように、情報を小出しにして、国民を煙に巻こうとしているのよ」 「なるほど」 「でね、こういう奴らはね、必ずやってくるのよ。『国民の皆さん、安心してください。我々は国民の信頼を裏切らない』ってね」 「何ですかそれ」 「まあ、とにかく、この手口はもう通用しないのよ」 ザマ美はホワイトボードに図を描く。 「だから、この男には、もう何も言わせない」 「はい」 「で、次のターゲットは?」 「次のターゲットは?」 ザマ美はホワイトボードを叩いた。「そう、内閣総理大臣よ」 情弱は目を丸くする。「総理をやっつけるんですか?」 「そうよ。あいつら、自分たちがどれだけ国民を騙してきたのか気付いていないのよ。で、あいつらのせいで、今、この国はとんでもないことになっているの」 「具体的には?」 「そうねぇ、例えば、高齢者に対する年金給付の削減とか、医療費の増大とか、非正規雇用の拡大による賃金の低下とか、デフレの進行とか……」 「えっ、そんなに?」 「ええ。でも、そんなこと、本当は起きていないのよ。あいつらがでっちあげた嘘なのよ」 「どうしてわかるんですか?」 「それはね……」 ザマ美はホワイトボードにグラフを描いた。「まず、現在の日本のGDPは世界第3位なのよ」 「へぇー、すごい」 「でしょう。なのに、この国の老人は、みんな年金をもらっているのよ」 「はい」 「おかしいでしょ。この国がいくら稼いでいると思ってるのよ。GDP比で見た場合、この国の年金は世界一の無駄遣いなのよ」 「なるほど」 「そして、この国の財政赤字は世界で最悪なのよ」 「えっ、そんなに?」 「そうよ。この国の借金は1000兆円を超えているのよ。こんなに膨れあがった原因はね、全部、あのボンクラどもが国民を騙してきたせいなのよ」 「はい」 「で、この国の問題は、もう一つあるのよ」 「何ですか?」 「そう、この国の自殺率よ」 「えっ、それってヤバくないですか?」
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