おいしい鴨を探しましょう

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おいしい鴨を探しましょう

死とは一体何か?心肺停止状態で脳死した人は本当に死んでいるのか? 生産性とは何か?社会貢献できない障害者は生かしておくべきなのか? 多数決とは何か?何でもかんでも賛成の数だけで正義を決めるべきか? あらゆる正義と建前に敢然と立ち向かう… ルサンチマンの世界へようこそ。 生きている事だけが幸福とは限らない。死んでみて初めて見える価値観もある。 ルサンチマンとは公正福祉士。 自分の存在価値を正しく理解できないまま生き地獄に苦しむ人々。 ただただ目的と手段を履き違え人権の名の下に浪費する社会制度。 貴方は疑問に思っていませんか。社会福祉とはなんだ。自分にちっとも恩恵がない。これは壮大な詐欺ではないのか。 死にかけている逸材、将来有望な天才重度身障児を死の淵から救い、飽食と悦楽と不正に明け暮れる人間の屑を適正化する。 世の中の理不尽を正し、相応の対価をちゃっかりいただく。 それが、ルサンチマンのお・し・ご・と。 ――ザマ美より ◇ ◇ 「死人にイギあり!」 見渡す限りの夏空。燦燦と降り注ぐ陽光は地上から影を払しょくし、命さえも奪っていく。そして、今ここに究極の恵みがある。 死体だ! 天が生きとし生ける者へ平等に分け与える恩寵だ。 白装束に死化粧が施され、安らかな表情で身体を横たえている。そのがっしりした体格と刻まれた皺は尋常ならざる人生を歩んだ事を物語っている。 「そろそろ俗世に帰る時間ですよ、先生」 眠れる獅子に影が差した。背広姿の男が物言わぬむくろに声をかける。 もちろん、返事はない。しかばねだからだ。 男は躊躇することなくストレッチャーに手を賭けた。 どうやら「先生」が真の安らぎを得る日はまだまだ先のようだ。 「どっかーんと儲ける方法?あったらとっくに売り逃げてるわよ。ギャハハ」 足の踏み場もない部屋で下品な笑いがこだまする。 「あるわきゃないですよね~」 ボサ髪に銀縁メガネの男がうなだれる。フリー素材写真から飛び出てきたようなオタクの典型。薄汚れたシャツの胸で水着姿の少女が笑っている。 「と、思うのが畜生の浅ましさ」 「それを言うなら素人の愚かさでしょ?」 下品女の指摘にアニメ声がツッコむ。 「あン?テメー殺んのか??クソババー」 メイド服の胸倉にべっこうネイルが突き刺さった。 「ザマ美さん、やめてください! おじゃんも挑発すんなよ」 オタク男が割ってはいる、 「だって、情弱。ザマ美おばさんが痛い前振りするんだもん」 フリフリのメイド服をくねらせて被害者アピールするおじゃん。 「おばさんは余計でしょ!」 ザマ美はバブル絶頂期を思わせるショッキングピンクのスカートを翻し、情弱に駆け寄った。 「今度は情弱と組もうってんですか? 大金を溶かされたばっかりなのに」 おじゃんが肩をすくめるが、ザマ美は情弱の腰に手を回す。 「この子の力が必要なのよ。ネッ?天才ハカー君」 情弱は迷惑そうに「またですか」と小声で毒づく。二人は、とある半グレグループから大金を騙し取ろうとして返り討ちにあったばかりだ。よせばいいのにバイナリーオプションを自動化すると偽って高価なシステムを売りつけた。投資はてっとり早い資金洗浄の手口だ。過去数十年分を深層学習したAIという触れ込みだが、利益の何割かはこっそりザマ美の口座に入る仕組みだった。それだけでは大儲けにならない。架空の追証を発生させ連中の資金を丸ごと溶かしてやった。ザマ美はそれを全て仮想通貨に換金したが、何者かに根こそぎ盗まれてしまったというわけだ。 「今度は確かな獲物を狙うのわよ。それも絶対安心確実なカネ」 ザマ美は情弱を諭す。 「だから、そんな金融商品ありませんって!」 情弱がザマ美を振り払う。 「痛いわねぇ! あるったらあるのよ!!」 ザマ美が机を両手で抑え、涙目の訴えで訴える。 「どこにですか!」 情弱が怒鳴る。 「国庫よ。国のお金。具体的に言えば政党交付金」 ザマ美は机の上に並べられた大量の書類を見回した。書類は今時のIT産業も真っ青なほどに整理整頓されている。 「ザマ美さん、公正福祉士(ルサンチマン)辞めるんですってよ」 一瞥するなり情弱が明後日の方角に吠えた。 「おやおや、これはこれは」 ロフトの中央を貫く螺旋階段。恰幅の良い男が身のこなしも軽やかにくるくると舞い降りる。執事(バトラー)の吉宗だ。四六時中いついかなる時も純白のスーツでパリッとザマ美達の言いつけをこなす。 「ザマ美さんが悪役令嬢を卒業とは!」 「縁起でもないこと言わないで。おじいちゃん」 吉宗がメンバーからおじいちゃんと呼ばれる理由はやらかして引退を余儀なくされたからだ。ルサンチマンが鴨に命を狙われ仲間を危険に晒した揚げ句すってんてんになる。そしてあわやという時にザマ美が命を救ったという次第だ。 「いやいや税金の使い道に挑むなんてまさに国民サイドの正義の味方。美味しい鴨肉をいただくルサンチマンとは真逆の燦然と光り輝く~」 情弱が300mは走れそうなほど両手を掲げる。 ザマ美は書類の束で左団扇を扇ぎ「そ~んなつもりはございません」と否定。 確かに税金から各政党に案分される政党助成金は政治パーティーなど運営費不足を理由に不正の温床となる資金集めを封じるための精度で決して鴨って良いお金ではない。ザマ美が言うには悪徳政治家の私腹を脇から責めるというのだ。吉宗は「そうはいっても政治家は昔から庶民の敵。ザマ美さん、ぜひ懲らしめてください」と拍手し勝手に歓送会の支度を始めた。 「そ、そんなこと!! 言い訳にすりません!」 ザマ美はおじいちゃんに飛びかかり、「私は主権在民、政府と一緒よ!」と言って、情弱を叱りつける。 「国庫? お金でしょう? 政府が政府(わたし)に仕えるだけのことよ」 しかし情弱は訊く耳を持たない。「政治家は国民の投票で選ばれますね」 「あんたと一緒に生きてゆけないわよ。これからは政治家なんて呼び出さないでね」 ザマ美は勝手に庶民の味方。ヒーロー呼ばわりされて面白くない。公正福祉士(ルサンチマン)はルサンチマンであるべきなのだ。 「あんたは私の敵になるわ!」 ザマ美は情弱を睨んだ。
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