第23話〜やってやろう

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第23話〜やってやろう

 おいしい時間が終わり、ふたりは店を出る。 「店長が言ってたこと、後でメモしなくちゃ…。」  またぶつぶつ言っている百合の後ろ姿を、航は微笑ましく見ていた。 「帰るぞ。」  航は笑顔で百合に手を広げる。百合も笑顔で応える。 「はい!」  ふたりは手をつなぐ。帰り道。 「明日は大人しく休め。疲れてるはずだ。」 「はい、そうします。」 「なんだよ、やけに素直じゃねーか。」 「昨日から一日しか経ってないのに、もう何年も経ったような気がして…。」 「大袈裟だな。」 「航さんといると時間が足りません。」  時々出る、百合のストレートな言葉。百合に自覚がないため、余計その言葉が航の胸にくる。 「今度の花火。あんたにとってのイベント、初めてか?」 「あ…そういえばそうです。」 「他にイベント事って、何があるんだ?」 「私に聞かれても…。」 「何かあるだろ。」 「んー…、夏が花火…、冬は…クリスマス…?それから…年が明けてバレンタインが来て、その後お花見…。あと…誕生日…?とか…?…んー…私にはわかりません!」 「それ全部やろう。」 「ん…え?」 「今言ったやつ、全部やるんだよ。いや、イベントってイベント、全部やってやろうぜ。」  百合の足が止まる。 「…全部…??」 「そうだ、全部だ。なんだ、嫌か?やるのか?やらねーのか?」  春夏秋冬、一緒にいてくれる。航がそう思ってくれている。それを知ることができた百合に、安心感と弾む胸。百合は笑顔で答える。百合らしい、小さな笑顔。 「全部…やってやろうぜ、です…。」  航も笑顔で返す。 「決まり。帰るぞ。」  笑顔のふたりは仲良く帰る。アパートに着く。笑顔のまま、手をつないだまま。 「じゃあな。ゆっくり休め。」 「はい。」 「焼き鳥、出来たら食わせてくれよ。」 「もちろんです。」  航は百合のおでこにキスをしようとした。 「あの!」  百合は声を出す。そして少しうつむいた。 「どうした?」  心配になる航。うつむいていた百合がゆっくり航を見上げると、航は百合を心配する、想いやる目をしていた。 「あの、そういうことをされると、逆にゆっくりできなくなる…んです…。」 「…なんでだよ。」 「…どきどきしちゃって、落ち着かなくて…。」  百合はその時でさえどきどきし、その場をどうしたらいいかわからなくなる。その時。  航の顔は百合の横。航は百合の頬にキスをした。 「じゃあ、これはどうだ?」  固まる百合。その百合の顔を航は覗く。 「おい、聞こえてるか?」 「え…?」 「オレはこっちだ、こっち見ろ。」 「え…?」  百合は航を探す。見つける、いつもの位置、いつもの距離。そしていつもの笑顔だった。 「ゆっくり休めるといいな。じゃあな。」  航は笑顔で帰っていく。固まっていた百合の体が動き出す。 「あ…航さん…!」  百合は叫ぶ。航に、自分に。 「航さん!ひどい!」  航は少し振り返り、笑って手を振った。それを見送った後、百合はアパートの階段を上り、ドアの前に立つ。今度は頬に手を当てる。 「おでこの時より、熱い…。」  落ち着かない休日の始まり。
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