Phantom

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「『添加物の無い生き方』『オーガニックのススメ』『肥育ホルモン剤の恐怖』『実践オーガニック生活』…」  これまでに私が出版した書籍のタイトルを羅列する声の主。  私は、医者という肩書を持ちつつ、食品添加物の排除や有機農法の推進していることなどで世間に名を馳せていた。健康志向のテレビ番組にも出演していた。自身で実践し、そのおかげかは断言できなかったが、年齢よりもかなり若く見える事も幸いして、支持もかなり得ていた。書籍もよく売れ、講演会で全国を駆け回る毎日だった。…ああ、そういえば、拉致されたのは講演会の帰りだったっけ。 「三世紀を生きる命を持っているという事は、とても退屈な事らしいよブッ」 「長生きが退屈だと、なぜ私がこんな姿になる!?」 「退屈だと、趣味なんかが必要になるよね」 「趣味!?」 「趣味の時間が長く持てれば、より遠く深くその道を突き詰められるよね。まあ、趣味にしろなににしろ、究極を求めるのは、ごく自然なことだよねブフフフ」  何の趣味の究極が、私をこんな姿に変えさせるのか… オーガニック…ああ、そういえば、私の口に放り込まれていた食材、私には分かった。すべてオーガニックなものだった…  「正解。グルメな『特定の人』が、あなたのオーガニック志向に共感し、実践し、究極のオーガニック食材を求め行き着いた先が…ブフフ」  そう言いながら私の耳を2枚摘まんだ状態で、私を指差した。 「その、私の心を読むのも『真』の成せる技?」 「いや、それは私の察しが良いだけだよ。あと、今回痛くしたのは、私の趣味だよ。『ストレスがかかったら味が落ちる』って怒られるけどブッフフフ」  そう言いながらライトの電源を落とした。途端に真っ暗闇が戻ってきた。 「あ、それと、耳については、量がこれだけしかないので、残念ながら今回は君への分け前はないブフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ…」  遠ざかってゆく吹き出すような笑い声。  私の『幻身体』にひんやりした汗が満点の星の様に湧き立ち、『幻心臓』が早鐘を打ち、『幻胃』からゴポゴポと、なにか酸っぱいものが勢いよく込み上げてきた。
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