祇園さんと親友になるまで

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そんな風に十條先生とのことはうやうやにされた次の日に祇園さんが学校を休んだ。 ホームルームで高橋先生が「祇園は風邪で休みだ」と言った時、山下が立ち上がって「お見舞いに行きます」と大声を張り上げた。 高橋先生は少しだけ困った顔をして「祇園の家は厳しくてお見舞いはご遠慮願っているそうだ。ちょっと熱があるだけだと言っていたから、明日には元気な姿を見せてくれるだろう」と言うと、山下は大げさにうなだれた。「やっぱりお嬢様だからー」とか「住んでる家見たかったのに」とか「すごい豪邸だろうな」と口ぐちに祇園さんのことばかりが教室の中でこだまして私は耳を塞ぎたくなった。 もし、私が風邪で休んでもホームルームは淡々と終わって、たった一人の親友だけが配布されたプリントを持ってお見舞いに来て、一緒に桃の缶詰を食べる。親友が買って来たアイスクリームも食べるだろう。 親友が引っ越してから私は風邪を引くことはできなくなった。風邪を引いてももう誰も見舞いに来ない。それがわかってしまっているからだ。 切れ切れになっている雲を窓から眺めながら、祇園さんにも誰も来ないと思うと、なんだか自分のことのようで、放課後に職員室で高橋先生を探していた。 高橋先生は自分の机の上で店屋物のカツ丼をガツガツと一心不乱に食べていた。 私が声をかけると呆けた表情で「九条、どうした?」と言われた。 「先生、お見舞いに行きたいんですけど、祇園さんの住所教えてもらえませんか?」 私の言葉にちょっとばかり考えて、「九条は祇園と仲がいいらしいな。一緒に昼ごはんを食べてるって聞いたぞ」 驚く私に「六波羅が引っ越してから大変だったと思うが、友達ができてよかったな」と言われ、私はこの先生のことをなにもわかっていなかった事を悟った。 親友の朝子が私の元を去ってから、無防備なままでクラスの中でただ、怯えていた中、体育会系のノリを貫いて細かいことなんて気にしてないような高橋先生はクラスの誰よりも私を見て憂いていた。 こんな時、大人との格差を感じる。 「ちょっと待ってろ。祇園の住所教えるから」 そう言って机の引き出しを開ける先生に私は言った。 「友達じゃなくて、親友です」 一緒に昼ごはんを食べてると高橋先生に言った人はわかりきっていて、今、寝込んでいるだろう。 こうしてわたしは祇園さんの親友になった。
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