最後の親友

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クラス一小さいクラスメイトは私が屋上に出た時には、一人でちょこんとベンチに座って、枯れた向日葵を見ていた。 「四条さん早いね」 「少しでも遅れたら何されるかわかりませんから」 そう返されて、言葉に詰まる。 「あれは嘘だから」 「でも、脅しですよね」 そう返されてまた、言葉に詰まる。 「なんでこんな所に向日葵があるんですか?」 「え?」 急に関係のない事を言われて「ええと」と曖昧な返事をしてしまう。 「あの種ってもらっていいですか?」 「え?」 またもや、予想外の事を言われて戸惑ってしまう。 「家で飼っているリスにあげたいんですけど、誰が植えたんでしょう」 「実は私と夏休み前に引っ越した友達と植えたの。園芸同好会作って、許可もらって、土をここまで運ぶのが大変で担任の高橋先生とかに手伝ってもらって」 そういえば高橋先生に手伝ってもらった事を思い出して、色んな事を忘れてしまっていたんだなと思った。あの先生はずっとクラスの誰かを分け隔てなく気にしていたことをわかってなかった私はこれからもわからないことばかりじゃないかと将来をちょっとだけ悲観した。 「六波羅さんですよね。私よりちょっとだけ大きくて、卒業までに六波羅さんより背が高くなりたいと思っていたんですが、転校されてがっかりしました」 「がっかりしたの!?」 私の声に何事かと四条さんは目を見張った。 「身長争いでライバルというか、私が勝手に思ってただけなんですけど」 なんという事だろう。私の親友が転校する事になってホームルームでその話を高橋先生がした時、クラスのみんなは凪のようだった。風のない水面だった。 私が見えてなかった端っこで飛び上がる小さな魚がいたなんて思いもしない。 「ありがとう」 思わず四条さんの手を握ってドンびかれた。 「ああ、ごめん」 「いえ、大丈夫です」 なぜか四条さんはほほを赤らめていた。 「すごく仲よかったですもんね。私にも佐藤さん、いつも裕子って呼んでるんですけど、仲のいい友達がいまして」 そこまで言って四条さんの言葉は途切れた。 「ホームルームで一緒に責められた親友がその裕子なんです」 「ほんとにごめんなさい」 私は平謝りして向日葵から種を取って四条さんが持っていた金魚柄のハンカチに包んだ。 「いいね、金魚柄」 私がそう言うと四条さんは急に元気になった。 「京都の伊勢丹に金魚柄の小物を売ってる店があるんです。そこでおばあちゃんに浴衣に似合う巾着と一緒に買ってもらったんです」 そう言って自慢げに見せびらかす四条さんをちょっとかわいいと思ってしまった。 「これでリスリスも満足します。リス用のエサばかりだと飽きちゃうと思いますので、たまには本場の向日葵の種を食べさせないといけません」 「飼ってるリスの名前ってリスリスって言うんだ」 「そうですけど」 じゃあ、犬を飼ったら名前はイヌイヌで、猫を飼ったらとどうでもいい事を考えてしまった。その上、向日葵の本場ってなんだろう。そんな所あるのかな、あったらいいな、行きたいなと思ってしまった。
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