最後の親友

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「祇園さんの家を知ってるって言ったよね」 訊きたかったことをようやく口にすることができた。 「やっぱり、言わなくちゃいけませんか」 「来たからには教えてくれるもんだと思ってたんだけど」 四条さんはしばらく考えて、向日葵の種の入ったハンカチを見た。 「リスリスの餌ももらったので話します。まず十條先生のことですけど、人気ですよね」 「うん?」 浅子の話がきけると思っていたのに十條先生の話しから始まった。 「九条さんは十條先生のことどう思います?」 「なんとも」 「そうですか。私もそんなでもないと思うんですけど、親友の裕子が『いいよねー』って言うもんですから」 「祇園さんの話なんだけど」 私は四条さんの意図が分からず、困ってしまう。 「そうでした。祇園さんが転校してからすぐに噂が立ったんです。『祇園さんと十條先生とできてるんじゃない』かって」 クラスで浅子と十條先生がキスをしてるのを見た人が、田中君以外にいたのかもしれないと思ってどうしようかと思った。 「クラスで『お似合いだよねー』って言われて祇園さんもまんざらでない様子だったんです」 「そういう現場を見た人とかいたの?」 私は恐る恐る訊く。 「現場ですか?職員室で仲良く話してたって事を見た人がいるってだけですけど」 キスを見られたとかでなく、ただ話してるだけを見られたんだと安堵した。 「それでも、裕子は憤って『許せない』って言うから、十條先生に直接真相を訊こうと思って放課後職員室に探しに行ったんですけど、いなくて、うろうろしている時に、美術準備室から九条さんと田中君が出てくるところを見つけたんです」 数日前、田中君と美術準備室に潜り込んだ放課後の私達を四条さんに見られていた。 「それで、何気なく美術室の前に行くと十條先生と祇園さんの声が聞こえるじゃないですか。だから、私もこっそり美術準備室に潜り込んで聞き耳を立てたんです」 「それで何かわかったの?」 私達は直ぐにその場を後にしたから、内容まではよく覚えていない。十條先生はどうでもいい話をしていて浅子も笑ってるだけだった。 「十條先生が話してる時、急に祇園さんが『その時計いいですね』って指差して『そうかな』って十條先生が笑って『他にも持ってますよね。そういうシルバー系じゃなくてゴールド系の腕時計』って祇園さんが言って十條先生が不審そうに祇園さんのこと見ました」 私にとって十條先生は少し派手で高そうな時計をしているという印象しかなかった。浅子もそれが気になったのだろうか。 「その後、祇園さんが『プレゼントされた時計はどうしたんですか?』って訊いて十條先生は動揺して『前にどこかで会ったかな?』って言ったんです」 「どこかで会った?」 「十條先生はそう言って祇園さんは『そろそろ帰ります』って質問には答えず席を立って美術室を出ていきました。十條先生は祇園さんの方を見て呆然としているようでした」 浅子にとって十條先生はキスをしたかもしれない存在だったはずだが、四条さんの話を聞くと違った浅子の姿が浮かび上がってくる。 浅子は嘘つき姫だから十條先生に嘘を付いたのかもしれない。でも、『プレゼント』という言葉が、引っかかった。 もしかして、浅子が贈った腕時計なんだろうか。 いくら考えても、わからない。本当の親友に辿り着けない私がいた。
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