最後の親友

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「そろそろ帰ります」 考え込んでいる私の横で四条さんが立ち上がった。 「ちょっと待って」 四条さんの腕を掴むとなぜかおとなしくベンチに座った。 「浅子の家は結局なぜわかったの?」 「普段は浅子って呼んでるんですね。親友ですもんね」 そう言う四条さんに私が頷くと「怒らないですか?」と訊かれたから「怒るよ」と答えた。 「その後、出て行った祇園さんをつけたんです」 「それはダメだと思う」 私がきっぱりと言うと四条さんに「あんまり怒ってないですね」と言われた。 「怒ってるよ」 「ホームルームで私の腕を掴んだときは、こんなもんじゃなかったですよ。なんか鬼気迫るものがありました」 「ごめん、そんなに怒ってたかな」 「私のお父さんが言ってました。お母さんを指さして『あれが鬼嫁と言うものだよ』って。それぐらい九条さんは怒ってました」 四条さんのお母さんに会ったことは無いけれど、私のお母さんが怒った時にはお父さんは新聞の陰で震えていた事を思い出してお母さんに似てきたのかなと頬が緩んだ。 「なに笑ってるんですか」 四条さんがなぜか怒って後を続けた。 「地下鉄に乗って京都駅に降りた祇園さんは地下街の書店に入って雑誌コーナーで立ち読みを始めました。こっそり覗くと男性向けの腕時計の雑誌を見ているようでした」 十條先生にも腕時計の話をしていたという浅子は腕時計が好きなのだろうかと思ったが、男性向けというのが気になった。 「私はてっきり十條先生に腕時計をプレゼントするつもりなのかと思いました」 今、私が思ったことを四条さんが言った。 浅子は十條先生に合う好みの腕時計を探してそのためにコンビニのアルバイトをしているとしたら、それは許せないことだと思って少し苛立った。 浅子はプレゼントをもらう側であくせく働いてプレゼントを渡す側じゃない。 私の中の浅子はそんな存在だった。 「その後もこっそり付けて行って、あの廃屋に入っていく祇園さんを見届けてしばらく呆然としてしまいました」 「あれでも人が住んでるんだよ」 「どう見ても取り壊し寸前の建物ですよ。明治時代に作られたものじゃないですか」 「明治時代の建物ではないと思うよ」 それでも四条さんは主張を変える気はないようで建物の外観のほころび具合を解説してそれを聞く私はそれでもあれは城なんだとわかっていた。『嘘の城』かも知れないけど、浅子姫が住んでいる限りそこは城であり続ける。 そう思った。
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