最後の親友

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「そう言えば、浅子が風邪で休んだ日に私を近くのコンビニで見たんだよね」 「見ましたよ。頭が寂しそうな店長さんに施しを受けてましたね」 「私が物乞いになったような言い方しないでよ」 呆れる私に四条さんが悪戯っぽく笑った。 「でも、なんであのコンビニに?」 「祇園さんが休んでお見舞いにとあの廃墟前までは行ったんですが、躊躇して立ちすくんでしまいました。祇園さんにここがどうしてわかったのかと訊かれたら答えられなくて正直に言ったら怒られると思って仕方なく近くのコンビニでシュークリームでも買おうと立ち寄ったら九条さんがいたのです」 「見舞いに来てくれたんだ。ありがとう」 自然と言葉がこぼれた。 「結局九条さんを見かけた後もお見舞いには行けずに帰ってしまいました。クラス委員長ですから、お見舞いぐらいした方がいいのかと思いまして」 「四条さんってクラス委員長だったんだ」 私と田中君もクラス委員だったけど、四条さんもそうだったなんて初めて知った。 「私と田中君もクラス委員なんだよ」 「知ってます。私は二人の委員のリーダー的な委員長を任されてるんですから。他のクラスではクラス委員は二人で委員長的なものは居ないんですけど、高橋先生に頼まれて私も委員長という形でこのクラスだけ三人でやることになったじゃないですか」 四条さんは呆れて私を見た。 「今まで知らなかったんですか?」 「うん」 そう答えると急に立ち上がって私を見た。 「前から思っていたんですが、九条さんはもっと六波羅さん以外のクラスの人に興味を持った方がいいです。そんなのだから孤立するんです」 それは直球で、私はその球を見逃すことしか出来なかった。サードゴロになってしまったその球を私はぼんやりと見る。ナイター中継を観るお父さんがゲームセットを喜んでいる姿を思い出した。 その負けチームに私は居たけれど、他のメンバーはどこにも居なかった。 たった一人では負けて当然だと思って寒気がした。 「あ、あの、ごめんなさい」 「どうしたの?」 私を見て四条さんが慌てていた。 「泣かないでください」 頬が温かくてさわると濡れていた。どうして濡れているのかわからなくて反対側の頬をさわった。 「ごめんなさい。泣かないでください」 さっき寒気がしたはずなのになんで温かいのか理解できずにぼんやりとしていた。 四条さんにハンカチを渡されるまで自分が泣いていることに気づかなかった。 わけがわからず泣いてしまった私を見守って四条さんが無言で座っていた。 「ごめんなさい」 「四条さんが悪いわけじゃないからね」 閉ざしたのは私で浅子が覗き込んでくれたけど、それでも積もった寂しさは消え去っていなかった。 たった一人の親友がずっと側に居てくれると私は思い上がって周りを軽んじていた事を知った。 「そう言えば、佐藤さんは付いて来てくれなかったの?」 親友ならこんな時一緒に来るはずだと当然のように思って訊いた。 「裕子は部活があるのに『一緒に行こうか?』と言ってくれたんですけど、私は『行かないよ』と嘘をついてしまいました」 そう言って笑う四条さんはかわいくて思いやる嘘がつける人だと思った。 「最後に一つ訊いていいかな」 「祇園さんの家のことなら誰にも言ってません。裕子にも言ってませんから安心してください」 私の質問なんか見透かされていて金魚柄の湿ったハンカチをスカートのポケットに入れて屋上からの階段を降りていった。 もう一つのポケットはハンカチから移した向日葵の種で膨れていた。
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