最後の親友

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浅子がいなくなって、どうしようかと決断がつかないまま、朝になって私は赤らんだ目のまま、登校した。夜中に持ち帰った雑誌をめくりながら、浅子がこれを残していった理由を考えながら、担任の高橋先生に相談すべきかシトシトと降る雨の音を聴きながら過ごした。 カバンの中にはあの雑誌が入っている。とりあえず、持ち出してしまった。持ち物検査があったら没収されてしまうかもしれない。 なんとか、予鈴ギリギリで教室に飛び込む。席について机の横にカバンをかける。 「祇園さんって体弱いの?」 「子供の時からすぐ熱が出ちゃって」 「お嬢様だから、仕方ないよね」 そんな会話が飛び込んできてその方向に私は首をひねった。 取り囲む侍女の真ん中には机に座るお姫様がいた。お姫様はいつもと変わらない笑みを浮かべて侍女の言っていることにうなずいたり、朗らかに返している。 そこは陽のあたるお花畑だったはずなのに今ははすの池が見える涅槃の場所だった。 住んでいた家はただの廃屋になっていて、今いるお姫様もおぼろげにしか見えない。 ここにいるお姫様は本物なのかと凝視した。 「大丈夫ですか?」 四条さんがハンカチを持って、横に立っていた。 「泣きそうな顔になってますよ」 「あそこ」 私はお姫様の方を指差した。 「あそこに座ってる子、見える?」 「祇園さん今日は来てるんですね。よかったですね」 少しだけホッとした。もしかしたら昨日見た光景の方が嘘だったのじゃないかと思った。 本鈴がなってホームルームが始まったが、担任の高橋先生が来たのはその5分後だった。 「一時限目は自習だ」 黒板に『自習』と殴り書きして足早に去っていった。 教室のクラスメイトは高橋先生の様子を見てざわめき出したが、浅子だけは平静なまま背筋を伸ばして席に着いていた。 「なにかあったんかな」 隣の山下が顔を寄せて来てうざいと思った。 「知らないわよ。寄ってこないで」 「ちぇ」 山下は方杖ついてふてくされた。 一時限目の自習の時間が終わる5分ほど前に高橋先生が現れて「休みの後、全校集会をやるから、体育館に集合してくれ」と言って足早に出ていった。 再びざわつく中、クラス委員長の四条さんや数人が高橋先生の後を追って教室を出ていった。 「高橋先生、何かあったんですか?」 「全校集会で校長先生からお話があるから、一時限目が終わるまで教室にいなさい」 四条さんの言葉に高橋先生が優しく答えるのが開いたままになってる前のドアの奥から聞こえて来た。 私が何気なく浅子を見ると浅子も私の方を見ていて目が合うと逃げるように前を向いた。 それは意識が無い虚ろな目だった。
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