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秋の転校生
新学期が始まって一ヶ月が過ぎた頃、眠たい眼をこすりながら昇降口に入ってきた私は誰かとぶつかって尻もちをついてしまった。
「大丈夫ですか?」
そう言われて差し出された手は今までで見たことのない白さでまるでろう人形のようだった。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です」
ひたすら打ったお尻をさすりながら立ち上がって手の主と向き合って驚く。
その顔もろう人形のように繊細な作りだった。
「どうかなさいましたか?」
私の態度を不思議に思うこの女子は見たことのない制服を着ている。
「あの、転校生ですか?」
そう訊くと「今日からこの高校でお世話になる祇園浅子と言います」と自己紹介され、私も慌てて「1年B組の九条千紘です」と返した。
「九条さんですか。私も1年なんです。一緒のクラスになれるといいですね」
そう言われて別れた。
アルビノってあんな感じなんだろうか。
そんなことを思いながら教室に向かった。
これが彼女との最初の出会いだった。
その後のホームルームで入ってきた彼女に当然のように男子はどよめき一部の女子も羨望の眼差しを向けた。
私に気づいた彼女が会釈して私もちょっと頭を下げた。そうするとまた、男子がどよめいた。
「九条の知り合いなんか?」
隣の席に座ってる坊主頭の山下が訊いてきて「朝、ちょっと会っただけ」と答えると「なんだー」とむくれてイラっとした。
「和歌山の高校から転校してきた『祇園浅子』さんだ。みんな仲良くしてくれよ」
黒板にでかでかと書かれた名前をバンバンと手のひらで叩く体育教師の高橋先生のガサツさに私はムッとした。
「『祇園』という苗字なんですけど、出身は鹿児島なんです。京都の高校に来れたということで祇園祭を見たいと思ってます。仲良くして下さいね」
そう自己紹介した途端、隣の山下が立ち上がって吠えた。
「声も美しい。来年の祇園祭一緒に行きましょー!」
祇園さんの声はひな鳥のさえずりのように美しかったけれど、山下の声は喉を詰まらせたニワトリのようだった。
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