秋の転校生

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お昼休みになって、私はあくまでさり気なくお弁当を持って教室を後にする。クラスのみんなは私のことなど気にしてないはずだ。 合鍵を使って侵入禁止の屋上に上がる。枯れてしまった向日葵が迎えてくれる。 ベンチに座ってお弁当を広げる。今日は晴れていてよかった。雨の日は学食で食べるけど、周りの喧騒で頭が痛くなって食欲がなくなってしまう。 ここならゆっくり食べられる。そう思った時、扉が開いた。 「こんにちは。あ、向日葵だ」 駆け寄る祇園さんが向日葵を見て「枯れてるねー」と嘆いた。 「向日葵は夏が終われば、枯れるもんです」 憮然という私に「ひとり?」と訊かれて不愉快になった。 見渡せばわかる。屋上には私と祇園さんしかいない。 「隣いい?」 訊きながらもう座っていた。 見た目と違って遠慮がない。 「お弁当おいしそう。私も食べようかな」 そう言ってコンビニの袋からコーヒー牛乳とカレーパンを出した。 「私、お昼ごはん一緒に食べてくれる人いなくて困ってて、ここいい場所だよね」 その言い分はあまりにもわざとらしかった。転校生の上綺麗な祇園さんは休憩時間でも人に取り囲まれて真ん中で枯れることのない向日葵のようだった。そこはいつまでも夏の最中のようだった。 昼休憩になった途端祇園さんに殺到する女子達を横目に空気のように抜け出した私の前に今この人がどうしてここにいるのか理解できなかった。 「クラスの人と食べないんですか?」 「私、大勢の人に囲まれるの苦手で、逃げてきちゃった。田舎育ちだから、人混み苦手なんだよね」 「大丈夫ですか?明日から素っ気なくされたりしませんか?」 私の質問に祇園さんは首をかしげた。 「そんなの気にしても仕方ないよ」 そう言って祇園さんは向日葵に向かっていって種を一つとって口に入れた。 「おいしくないね」 ボリボリと噛みながら苦笑する。 おかしな人だと思った。
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