7月の出会い

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7月の出会い

 京都駅の改札口で私たちは出会った。夏休みの初日、浅子を目指す旅が始まる。  「田中君おはよう」  「九条さんおはよう」  私も田中君も大きなスーツケースを引いている。  「九条さん、海外旅行にでも行くつもり?」  「田中君こそ、オーストラリアにでも行くの?」  私たちは笑いあう。  「長い旅だから」  「長い旅になるといいかな」  「どうして?」  「それは長くいられるから」  俯いて小声で田中君がそう言う。長い夏が始まる。まず、和歌山の高校に向かうべく電車に乗り込んだ。  電車に揺られる中、私たちは無言でスーツケースが邪魔でどうにかならないかとしか考えられないまま、紀伊田辺駅に着いた。  重量物でしかないスーツケースを駅のコインロッカーに放り込んで20分ばかり歩いて海岸にたどり着く。砂地を足で蹴って海水浴をしている人を眺め、照りつける太陽に目を細める。  「太陽が眩しいと誰かを殺したくなるのかな」  「え」  口から出てしまった私の言葉に田中君が驚いて立ち上がる。  浅子が十條先生を殺した時は雨だった。『異邦人』みたいに太陽は眩しくなかった。  「ごめん。暑すぎて私どうかしてる」  「大丈夫?」  田中君は自販機まで走っていってミネラルウォーターを買って私に渡した。  「ごめん」  そう言ってごくごくと喉を鳴らす。田中君はその姿を黙ってみていた。  「祇園さんの行ってた高校ってあれなのかな」  「あれだよね」  浜辺から見えるすぐ側に潮風を受け続けたようなほころびた校舎が見える。  「行かないの?」  そう言われて私は黙り込む。なんだか急に踏み出すのが怖くなって砂を蹴って誤魔化そうとする。田中君は黙ってそれを見ている。  「約束の時間にはまだあるから、少しゆっくりとしていくのもいいかも」  そう言って田中君も横に座って砂を蹴った。  私達は小一時間ばかり砂を蹴り続けた。  「行かないとね」  私は立ち上がり、お尻についた砂を払う。田中君もそれに続いて砂を払った。
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