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名前を見る限り24時間やってなさそうなコンビニに入るとすぐにアイスクリームが入ったケースを覗き込む。そういえばどんなアイスがいいか訊くのを忘れて悩む。とりあえず、バニラ系のアイスを二つ手に取った。
「祇園さん、今日休み?」
「風邪ひいたんですって」
棚に弁当を出している二人の会話が気になって、声をかけた。
「祇園さんって」
一瞬だけ沈黙して「ああ、その制服、祇園さんの友達?」と訊かれて頷くと二人掛かりで詰め寄られた。
「祇園さん大丈夫?」
「いつも頑張ってくれてたから、体こわしちゃったんだよね。ほんと店長人使い荒いから」
「ちょっと熱が出ただけなんで、大丈夫です」
後ずさりながら答えると奥からまた店員が出てきた。
「店長!」
「店長!」
「え、どうしたの?」
奥から出てきた人は店長らしくていきなり二人に責められていた。
「店長がこき使うから祇園さんが風邪ひいたじゃないの」
「そんなこと言われても」
「大したことないので」
二人から責められる店長に私が口を挟むと「祇園ちゃん大丈夫だよね」と言われていらっとした。
「祇園ちゃんは大丈夫じゃないです」
「そうなの?」
「ほらやっぱり」
「ほらー」
そんな風に責められる店長を見て「嘘ですよ、浅子はやわじゃないです。今はちょっと熱がありますけど」
親友をちゃん付けされて意地悪してしまった。
「浅子は毎日働いてるんですか?」
「学校がある時は、夕方から夜の10時までだけど、最近はバイトが一人辞めてね。12時ぐらいまで働いてもらってる。土日は9時ぐらいから夕方まで入ってもらっていて、助かってるよ」
店長はそう言って頭を下げた。てっぺんが薄くなっているのが見えて頭を下げるたびに見られてるなんて店長なのに大変だなと思った。
レジにアイスクリームを持っていくと慌ててレジに来た店長が「いいよいいよ」と言って財布を出す私に言った。
「でも」
「あ、そうだ」
店長はいきなり走り出して棚からお弁当を二つ持ってきた。
「これ賞味期限ギリギリのやつだけど、明日までは持つから祇園ちゃんと二人で食べてよ。祇園ちゃんによろしくね」
私は一銭も払うことなくお弁当二つとアイスクリーム二つを持って浅子の住んでるアパートに向かった。
「祇園ちゃん、アイス買ってきたよ」
扉を開けてそう言うと「店長に会ったんだ」と笑った。
「いい店長だね」
「先月奥さんに逃げられたけど、いい店長だよ」
「逃げられたんだ」
「パチンコが好きでそれで逃げられたってパートのおばちゃんが言ってた」
「ふーん、大変だね」
大人も色々あるんだと袋からアイスクリームを二つ取り出して「どっちにする?」と尋ねると「こっちかな」と爽やかなバニラアイスを選んで私はスーパーなバニラアイスを手に取った。
一番好きなのは牛の鳴き声のバニラアイスだと浅子は言って、あっちだったかと選択ミスをした事をちょっと後悔したが、「これ、初めて食べたけどおいしいね」と言われてなんとか持ち直した。
「お弁当ももらったんだ。食べる?」
「明日食べるよ。一つ持って帰っていいよ」
「うちではこういうのダメなんだ。体によくないって」
「そうなんだ」
浅子は寂しそうに呟いて「じゃあ、二つとも冷蔵庫に入れておいて」と言われるままに冷蔵庫にお弁当をしまった。
アイスを食べながら、部屋の隅にある雑誌を手に取った。ちょっと前の雑誌で高い時計ばかり載っていた。
「浅子、時計に興味あるの?」
その雑誌を手に取る私を見た浅子はなんとも言えない表情をした。
「そろそろ、帰った方がいいかも」
浅子は空になったアイスのカップを名残惜しそうに眺めてそう言った。
外はすっかり暗くなっていた。秋だから陽が落ちるのが早い。
「そうだね。帰る。また来ていい?」
「ここは嘘つきのお姫様が住む『嘘の城』だけど、また来るの?」
「自分でお姫様なんて言うんだ」
「見えないよね」
自嘲する浅子に「どうだろ」と言ってはぐらかしたけど、初めて出会った時からお姫様にしか見えなかった。
「明日は来れる?」
「熱も下がったから行けるよ。明日学校で」
「うん、明日学校で」
そっと扉を閉めて、お姫様の城を後にする。
こんなうらびれた城だけど浅子がいるだけでどの城よりも立派だと私は思った。
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