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目が覚めるとすっかり日が昇っていた。
今日は休みにしておいてよかった。
そんなことを思いながらコーヒーメーカーに粉をいれスタートボタンを押す。
熱湯をまず沸かす音が聞こえ始めた。
キッチンにある小さな椅子に座って、新聞を読んだ。
ノボルのいつもの行動だった。
しかし、なんだか調子がおかしかった。
ジュディと寝る前はそんなことはなかった。
気分にむらがある。
しかも変な夢をみる。
ノボルは舌打ちをするとテレビをつけた。
NHKが映し出される。
ノボルが見るのはもっぱらNHKだった。
広東語も中国語もわからないので現地のドラマなど見たこともなかった。
しばらく見ているとニュースが終わり、今夜の紅白歌合戦の宣伝を兼ねた番組が始まった。
出演するメンバーをみても、知っている歌手が少なくなっていることに気がつき苦笑した。
俺も年か…
海外にいると日本の歌を聴こうとしないと聴く機会に恵まれない。
だから紅白で聴く歌は初めてのものが多かったりする。
武田あたりが見たら分かるのか…
ノボルは背伸びをすると今夜のために片づけをするために歩きだした。
「武田?あー今日は来ない?気にするな。」
午後5時ごろになってそうタカオから電話あった。準備をしてあったのだか、まあ大方彼女と過ごしたくなったんだろうとノボルは電話を切った。
去年はどう過ごしたんだっけ?
ああ、去年は日本から友人が来ていて街の飲み屋で年明けを迎えたっけ?
まあ、楽しいといえば楽しい年明けだったよな。
今年はのんびりと過ごすか…
ノボルはそう腹をくくってリビングルームに酒の肴やグラスを並べていく。
一人で飲むのは慣れていた。
夜寝るときに女がいたほうがいいが、あとは面倒なだけだった。
しかし、あの女…
ジュディは面白い女だったな。
いろいろ楽しい話をする…
性格が男らしく、さっぱりしており、物事を数字で考えるジュディがノボルにとっては新鮮だった。
ジュディとなら寝る以外一緒にいても楽しいかもな。
テレビをぼんやり見ながら、そんなことを考える自分に気づき、ノボルは苦笑せずにいられなかった。
紅白歌合戦が始まった。
まず若手の歌手が歌い始める。
辛うじて知っている歌手だったが、歌を聞いてもわからなかった。
やっぱりさっぱりだな。
ノボルはキッチン行くとビールを取り出す。
寒いと言ってもビールで飲み始めるのがノボルの飲み方だった。
ビールを冷蔵庫から取り出すと、インターフォンがなる音がした。
ノボルが住んでいるのは高級住宅で守衛がいるので不審な者は入って来れないはずだった。
武田か?
扉を開けるとそこには不機嫌そうなジュディの姿があった。
「あんた、なんで?」
ノボルは目を見開いてジュディを見つめた。
幻覚としか思えず目を何度が瞬かせる。
しかし、ジュディはそこにいた。
「中に入ってもいい?寒いんだけど」
「ああ、どうぞ」
驚きのままノボルはジュディを家の中に入れた。
「はあ、本当寒いわね」
ジュディはそういいながらコートを脱いで壁に掛けた。
ノボルは呆然としながらも、タカオが急に約束をキャンセルしたことなどを考え、ジュディがここにいるのはタカオが一枚噛んでいることを想像できた。
「えっと、今日は年末パーティに参加するんじゃなかったけ?」
「ええ、そのつもりだった。でもここに来ちゃったわ」
ジュディは悪戯な笑みをノボルに向けた。
「悔しいけど、私、あなたを好きになったの。自分の気持ちに気づいたから言いに来たの。だって、気持ちを抑えるのって耐えられない。体だけの関係になる気はないけど、今日は私の気持ちを伝えにきたのよ」
ジュディは力強い瞳でノボルを見つめたまま、そう言った。ノボルはその瞳に囚われながら黙ってジュディの言葉を聞いていた。
自分の気持ちが形をとったのはわかった。そして、ここ数日自分の調子を狂わしているもの何かわかった。
「俺も悔しいけど好きになったみたいだ。悔しいが、あんたの体だけじゃなくて、あんたと一緒にいたいと思う」
ノボルがそう言うとジュディは明るい笑顔を見せた。
「じゃ、今日から私たちは恋人同士よね?」
「ああ。だから今の彼氏とは別れろよな」
「彼氏??」
「昨日、スーパーで見たぞ」
「ああ、あれね。弟よ。ハンサムでしょ。私に似て」
ジュディの答えにノボルは気が抜けた。弟だなんて思いもしなかった。でもそのおかげで自分の気持ちがさらに深まった気がする。
「焼いたの?ノボル?」
ジュディは上目遣いでノボルを見る。目つきが色っぽく、そのつややかな唇が誘っているようでノボルは気分が高揚するのが分かった。
「ああ、焼いた。そして今あんたを抱きたい。いいか?」
「…ああ、もう。いいわよ」
ジュディがため息混じりにそう答えるとノボルはその唇に自分のものを重ね、その体を抱きかかえた。そして寝室へ向かう。
テレビからは懐かしいメロディが流れ始めた。
今年も紅白は最後まで見れないな。
そんなことをノボルは思いながらも愛しい人をベッドにゆっくりと下ろした。
「そうだわ。もし他の女を抱いたりしたら、その女を殺した後、あなたも殺すからわかってるわね」
「ああ、わかってるさ」
ジュディのきらきら輝く瞳に見とれながらノボルはそう答えた。そして口づける。
他の女なんて抱くわけがない。
俺にとってジュディが最高の女なんだから。
開けっ放しの扉の向こうから除夜の鐘が聞こえ始めた。
どうやら紅白歌合戦が終わり、除夜の鐘を突き始める放送が始まったようだった。
ノボルは年が明けるのを感じながらもジュディの体におぼれていた。
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