序章

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「ったく、お前は生きていて何の得にもなんねーんだよ。穀潰しだな」 その子には何も与えず、自分だけ悠長に食事をしていた。他に家族はいない。 「良かったら、これ食べる?」 何かを言い続ける父親らしき奴を無視して、彼の前に来たばっかりのチーズハンバーグを差し出した。一瞬顔が輝くも親の機嫌を伺い、目を伏せる。 「いいんだよ、食べな。お腹空いているよね」 「おい、何だ。勝手なことするな。お前は誰だ?悪いことしたから、反省しないと飯は与えられない。うちの方針に口出ししないでもらいたい」 「反省という名の虐待かよ。見苦しい。胸糞が悪い」 実は近付いた際、彼の首元にある大きな痣が目に入った。明らかに人為的である。クソ人間はどこまで行ってもクソ人間だ。 「なにいっ、生意気なガキが」 「生意気で結構。腹が立つなら殴ればいい」 「お前……なめんなよっ、黙れ」 突然の大声に、ファミレス内が騒然となる。 胸ぐらを掴まれた俺は微動だにしなかった。ここで警察沙汰になれば、行政がこの子を救うために動いてくれるかもしれない。 少なくとも、俺が個人的にやるよりは希望が持てる。誰かが気付いてくれれば、きっかけになるのだ。 「お客様、やめてください」 「うるせえっ。こいつが悪い。いい加減にしろ、クソガキめ」 クソガキ……久しぶりに耳にした単語だ。昔は、自分の名前がクソガキだと思っていたくらい、耳にタコが出来る程聞かされていた。 割って入った店員と奴が揉み合いになり、強く押された俺は、スローモーションで背後へ吹っ飛んだ。後頭部に大きな衝撃を受け、燃えるような痛みが首筋に走る。 「…………っつぅ………………」 殴られるのには慣れているからと、いつもの様に立ち上がろうとした。視界がぐにゃりと歪む。目眩と共に意識が遠くなり、間もなくブラックアウトした。 薄れゆく意識の中で、悲鳴と怒号が飛ぶ。 あれ……俺、ちょっとおかしいかもしれない。 ここで死ぬのか……? それも悪くない、と思った。
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