その後

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キノが城を離れた理由。 俺もあまり詳しく知らない。先代王の時代に、王族で難しい病を患った人がいて、そのための治療が原因のようだった。『王族だから』という理由で全てのものからの優先を要求され、然るべき人へ然るべき治療が出来なかったとキノが言っていた。 その頃の話は語りたがらない。だから、俺も聞かないことにしている。 キノは医者であることに誇りを持っている。そして誰にでも手を差し伸べる優しい医者だ。 俺はそんなキノを心から好いている。俺に居場所を作ってくれた彼に、自らの全てをかけてでもついて行こうと決めていた。元から何の価値もない自分だけど、少しでもキノの役に立ちたい。 「なら、母様を知ってるか?母様が来たばかりの頃とか」 キラキラとリツの瞳が輝く。 「知ってるも何も、アオノ様を初めて診察したのは俺だ」 「えええっ、教えて欲しい。母様はどんなだった?ニンゲンとやらの生態が知りたい。俺は医者になりたいんだ」 キノの眉間に皺が寄った。どうやらリツの情熱へ火をつけるような何かに触れたらしい。 「断る」 「何で教えてくれないんだ!!」 「ルークが怯えている。まずは、こいつらを信用させてからだ。城には立派な王医がいるだろう。俺が教える必要は無い」 「あいつらは嫌いだ。母様に冷たいんだ。母様は長い間苦しんでいる」 「え、どういうこと……?アオノ様はちゃんと治療を受けてないの?お妃様でしょう?」 「眞人、それ以上踏み入るな。俺達の介入出来ないこともあるんだ」 意味深に目を伏せる姿は、リツとは言え、アオノ様そのものである。本人を目の前にしている気がして、俺は切ない気持ちになった。 「なんで?アオノ様は俺の命の恩人だよ。困ってるなら助けたい。キノは診てあげられないの?」 「…………済まない。いくら眞人の頼みでも、これはどうにもならない」 この世界……特に俺みたいなはぐれ者は、軽視されていた。獣人は自族を愛するあまり、余所者を排除しようとする。人間の世界でも同じだ。外れた者は意見も聞いてもらえず、邪険にされた。 もしかしたら、アオノ様はずっとそのような待遇を受けているのかもしれない。お妃ならなおのこと、当たりがキツイだろう。 胸の奥がキュッと苦しくなった。 「でも…………」 「とにかく。城へ知らせておくから、迎えが来るまで待ってろ」 キノはリツを冷たく引き離し、トカゲの手網を握った。
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