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呆気にとられ続ける私に向け、百瀬会長はいつも通りにこやかに語られる。
「だってさ、紫乃ちゃん。全く僕に目もくれないでしょ? 少しは揺さぶりかけたくなってねえ」
「そりゃあ、あれだけ惚れ込んでいる相手(先代会長)の存在を知っているにも関わらず、そういう眼差しを向ける方が失礼だと……」
「あははは、確かに! 紫乃ちゃんって、そういう子だよね!」
そう言って、百瀬会長がケタケタと笑い転げられる。その笑い方が、年相応な高校生らしいものだった故だろうか。嫌悪感より愛しさが優っている自分自身の感情の動きに何よりも驚いていた。
「だけど、知ってる? そのことを知る前から紫乃ちゃんは《そういう眼差し》を向けたことが一度もない事実を」
「……そう、ですか?」
とぼけた答えを返しつつ、実はキチンと把握している。
あれほど仕事が出来て、端正な顔立ちをしていて、求心力があって、賢くて、劣っていることを探す方が難しいような存在であるにも関わらず、全く恋愛的なニュアンスで惹かれない事実に、自分自身も密かに驚愕していたのだから。
とは言え、恋愛的なニュアンスで惹かれるように努力できるものでもないわけで……。ひとまずニュートラルな感情で接し続けていたわけだ。
「そうなんですよー。まあ、そういうクールなところとか信頼の置ける良い特質だと思っていたし、嫌いじゃないんだけどね」
「? 百瀬会長、ハーレムの野望があったりするタイプなんですか?」
至って真面目に辿り着いた疑問を真剣に投げ掛けてみれば、ぶはっと吹き出し、盛大に笑い続けている。
「違うって! 何で、そうなっちゃうわけ?」
「だって、今の言い回しだと……。百瀬会長は私に対して好意を抱いているわけではない。だけど、好意は抱いて欲しいという風にしか聞き取れないのですが」
「……」
「百瀬会長?」
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