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主張をすると息巻いて、肝心なことをボカす勢いで語ることほど野暮なものもまたないだろう。だけど、主張の内容そのものを百瀬会長に伝えるつもりは一切なかった。とは言え、自分なりのけじめをつけるべく、私は百瀬会長に向き合い続ける。
「……それって、紫乃ちゃんのご両親も知っているの?」
肝心なことをボカして語れば、当然だが発言は酷く曖昧なものになってしまう。そうなってしまうと、やはり無用な心配が発生する可能性も高まってくる。そんな現実的な状況も鑑みつつ、出来る限りの礼儀を尽くしていく。
「ええ、知ってます。とは言え、無理に押し通してる感じですかね……。あ、でも安心してください! 流石に法律に触れるような悪さとかではないですから」
辛気くさい雰囲気諸共吹き飛ばす勢いで、茶目っ気たっぷりに言ってみる。そんな私の様子を静かに見つめつつ、穏やかな笑みを浮かべた百瀬会長がしっとりとした声色で語るから、思わず動揺してしまう。
「うん、そうだろうね。紫乃ちゃんなら絶対そういうこと、しないだろうね」
「……」
「あははは、そんな顔しないで? 説得力なくなっちゃうよ?」
百瀬会長の視線と声に動揺し、狼狽えていた私に向けて、いつもの調子でおどけてくださる。そんな百瀬会長のさりげない優しさに、年上の貫禄と器の大きさを嫌でも痛感してしまう。
私が言いたいことを全て語ることが出来るように、お膳立てしてくださる気遣いに対し、私はイタズラな笑みを浮かべて感謝を伝えてみる。その笑みを確と受け止めた百瀬会長もまた不敵な笑みで応戦してくださる。言葉がなくても意思疎通ができる楽しさを噛み締める頃には、有難いことにすっかりペースを取り戻すことに成功していた。
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